ハラスメントが起きやすい環境

今回は「舞台芸術におけるハラスメントガイドブック」についてです。

舞台芸術には、稽古や創作行為のための共同作業は欠かせません。
しかし、それは閉鎖的な空間で長時間共同制作をする環境のため、個人同士の関係も深まりやすく、ハラスメントが起きやすい環境であるといえます。

そこで、プロデューサーや興行の主催者などが創作現場でのハラスメントを防止し、より良い創造環境を作るためのガイドブックが今年公開されました。

ガイドブックを作成したのは、舞台芸術に関わる団体で作る「一般社団法人 緊急事態舞台芸術ネットワーク」です。
舞台芸術業界の主要な制作会社や劇場、劇団、さらにスタッフ会社など、実に200以上の団体が加盟しています。

このたび公開された「舞台芸術におけるハラスメント防止ガイドブック」を作成したプロジェクトチームのリーダー・坂本ももさんに、いきさつを聞きました。
坂本さんは範宙遊泳という劇団のプロデューサーで、さらにロロという劇団では制作として舞台芸術に関わっています。

ハラスメントガイドブックが出来た経緯

坂本ももさん

「舞台芸術におけるハラスメント防止ガイドブック」を作成したプロジェクトチームのリーダー・坂本ももさん
「少しずつSNSの発達の中で、昔はその場にいる人しかわからなかったようなクローズドだったものが告発されるようになってきて、それは昔はハラスメントとは言わなかった、問題視されていなかった部分があるので。なかなか改善に声を上げられないというのが業界としても続いていた中で、さすがにやっぱりもう時代が変わっていて、舞台芸術業界だけ特別というわけにはいかないというのにようやく気付いたというような」

業界を巡っては、コロナ禍での感染防止対策や国際的なMe Too運動…なども経て社団法人として様々な共通の課題に取り組んでいく流れで、今取り組むべきはハラスメントだと考え始めたそうです。

「舞台芸術におけるハラスメント防止ガイドブック」にはハラスメントになり得る事例がたくさん挙げられているので、まずはいくつかご紹介します。

「人格否定や暴言を吐く」「暴力を振るう」「キャスティングと引き換えに無理やり性行為をする」…(これはハラスメント以前に犯罪ですが!)
「拒否や抵抗に対し、役を下ろしたりギャラを下げるなど不利益を与える」「指示をする際に語気が強くなる」…など。

一方、こうした事例に対し、ガイドブックには興行主催者が取るべき防止のアクションがまとめられています。

例えば、暴言、暴力に対しては「個人の意識だけでは改善されない場合があるため、主催者は興行単位でハラスメント防止研修などを導入し、意識改革から取り組む必要がある。加害者が自身の攻撃性やストレスに向き合い、メンタルヘルスを整えることも重要で、カウンセリングやアンガーマネジメントなども有効」と載っています。

ハラスメント防止のためには、第一に主催者が「ハラスメントをしない/させない」という姿勢を示し、関係者に対して意識を共有することが何よりも大事だと指摘します。

舞台芸術は様々な形態で興行が行われていて、興行主であるプロデューサーよりも、あるセクションのプランナーの方が年上で意見しづらかったりするなど、より複雑な構造が存在します。
こうしたことから、座組ごとに実態に即したルールをガイドラインとして示し、関係者全体にハラスメントの知識を授け、防止対策を周知することが大切だということです。

ハラスメントガイドブックの反響は

事後対応等も含め、40ページを超えるこのガイドブック。どんな反響があったか坂本さんに聞きました。

舞台芸術におけるハラスメント防止ガイドブック

坂本ももさん
「結構心配してたんですね、どう受け取られるか分からなかったので。なかには、やっぱり『表現の幅を狭めるんじゃないか、逆に』っていうようなご意見を多分持つような方もいらっしゃるだろうと。それはこれが窮屈だという事、多分ハラスメントしてるっていう事だと思うんですけれど。概ね、おそらくポジティブなリアクション、こういうものが無かったので。 ただ課題でもあるんですけれども、これが書かれたとて、読まない人は読まないので…」

おしまいに、坂本さんが委縮する事のないコミュニケーションの大切さについて、今後の願いを聞かせてくれました。

坂本ももさん

坂本ももさん
「例えば、海外ではフラットに議論して物を創っていく感覚があるんですけれども、日本の舞台芸術業界は上から伝達されるようなものに従うっていうようなクリエイションが多いので、その違いがハラスメントを生みやすい構造になっているなって思っていて。弱き立場の者も『ちょっと足踏まれて痛いからやめてください』って言えたら本当はよかったんだけれど、それが言えなくて踏まれ続けているから、最後は告発として表れるイメージがあるんですけれど。それは、主催者側は『足踏まれています、痛いです』って言える環境を作らなきゃいけないし、踏まれている側も頑張って『足踏まれています』って言える訓練をしないといけないし、踏んだ側は『足踏んでいました、ごめんなさい』って言わなきゃいけないみたいな。なんか、それができれば、告発に至るまでに解決できることがあるんじゃないかなって思ってるっていうことですね」

このガイドブックをきっかけに、舞台興行の現場が、誰にとっても安全で安心できる環境として創作にのぞめるようになることを願います。

(TBSラジオ「人権TODAY」担当・TBSラジオキャスター 加藤奈央)

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