将来の幹事長・総理候補という声も一部から上がっていた自民党の大物・武田良太元総務大臣が落選した。

旧二階派で事務総長を務め、菅元総理とも近く、存在感を増していた武田氏。裏金問題で処分を受け比例との重複は認められなかったものの、当初は投票箱が閉まるのと同時に「当選確実」が出てもおかしくないと見られていた。ここ数回の選挙はいずれも圧勝で、地盤は盤石だとみなされていたからだ。

新人が武田氏を破るという大物食い=ジャイアントキリングはなぜ起きたのか?「負けに不思議の負けなし」という言葉の通り、取材を進めていく中で裏金問題だけではない3つの敗因が見えてきた。

【敗因(1)】裏金問題の説明は十分だったのか

派閥から受けた寄付金1926万円を政治資金収支報告書に記載していなかった問題で1年間の党の役職停止処分を受けた、いわゆる「裏金議員」の一人である武田良太氏。衆議院の政治倫理審査会に出席したことで「説明した」と語っていた。

武田良太氏 10月5日

「何をもって裏金というのか。本当に裏金をもらった人には厳しい判断が下るんじゃないかと思うけど、我々は決して裏金はもらっていませんしそこのところは政治倫理審査会で説明させていただいています」

裏金問題が発覚して以降、武田氏は地元で会見を開くなどして説明することはなかった。武田氏が地元で裏金問題に言及したのは、選挙戦序盤の街頭演説での謝罪だった。

武田良太氏 10月23日

「今回自民党から発した事案により、国民の政治不信を招くに至りましたことを本当に心から申し訳なく思っております」

ただ、何についての謝罪なのか、その中身の主語は「自民党」。

「他人事のように聞こえる」「武田氏が自身の問題として謝罪しているのか分からない」こう話す有権者もいた。

その謝罪も、選挙戦終盤になると消えた。対抗馬である日本維新の会と社民党の新人が、いずれも「裏金問題」に言及する中、武田氏の説明は十分だったのか、疑問が残った。

一方、同じ旧二階派で不記載が明らかになった福岡4区選出の宮内秀樹氏は、同じ裏金問題の当事者でありながら当選した。

もちろん選挙区の構図は異なるが、宮内氏は不記載が発覚してから比較的早い時期に地元で会見を開き謝罪している。記者からさまざまな質問が飛んだが、少なくとも答えようとする姿勢は見せて、選挙戦でも序盤から終盤まで裏金問題への釈明は続けていた。宮内氏が当選し、武田氏が落選する結果になったことは、象徴的だ。

【敗因(2)】統一教会問題でも説明は十分だったのか

統一教会をめぐる問題でも、武田良太氏と事務所からの説明は、十分になかった。

武田氏は、統一教会の関連団体の会合に出席し挨拶したことが自民党の点検で明らかになっている。

RKBは、武田氏に対し、事実関係などについて複数の質問を送ったが、届いた回答は、個別の質問には答えず「ご指摘の団体から何らかの依頼を受ける、また依頼をした事実は一切ございません」というものだった。

「政治とカネ」の問題が発覚する前に注目されていた統一教会の問題。武田氏の「十分に説明しない」対応は、このときから有権者の目に映り始めていたのだ。

【敗因(3)】武田氏のアキレス腱!?バックにいたのはあの町長

武田陣営の選挙を取り仕切る選対本部長。今回は県議会議員が務めていたが、これまでの選挙で選対本部長だったのが大任町の永原譲二町長だ。

今回の選挙では、選対本部長こそ務めなかったものの、武田氏が相手候補との接戦が伝えられた17日の夕方に開かれた緊急会議を開くなど、永原町長の存在感は変わらず顕在だった。

地元では武田氏と永原町長の関係が近いことは周知の事実で、永原町長自身は武田氏と「兄弟のようにしている」と表現している。

その関係をめぐり疑念が深まったのが、情報公開請求をめぐる対応だ。大任町の永原町長は、情報公開に消極的な姿勢がかねてより指摘されてきたが、武田氏の秘書とされる人物が、大任町に出された町長選挙の収支報告書などに対する情報公開請求の内容を把握していたことが明らかになったのだ。

「ビビりますよ」現役大臣が気にする”情報”?公開請求したら秘書とされる人物から電話、自治体は証拠がないと否定(2023/10/10放送)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/768782

大任町に情報公開請求をしたニュースサイトの記者に対し、武田氏の秘書と名乗る人物が電話をかけてきたという疑惑。大任町から、武田氏側に情報がもれていたのか。

RKBはこの時に残されていた音声データをもとに、情報公開請求に関して秘書が電話をした事実があるのかなどを武田氏に質問した。これに対しても武田氏は個別の質問には答えず「本件について一切関与しておりません」と回答するだけだった。ここでも十分な説明と対応は得られなかった。

「クリーンな政治」求める対抗馬

3回目の挑戦で武田氏を破って当選した新人の村上智信氏。今回の選挙戦では「古い政治をやめる」「クリーンな政治、わかりやすい政治の実現」を訴え続けた。

村上智信氏は、記者が1年半ほど前に話を聞いた時にも、11区内の自治体で不透明な行政運営が行われていることを問題視していて、その主張は選挙期間中も一貫していた。

村上智信氏「田川市郡、公共工事にしてもそのお金の使い道を公開しない。どの企業にお金を渡すかを明らかにしない。そういう事例があります。やましいことがなければ明らかにすればいい。どうして隠すんだ。」

自民党の裏金問題に、11区内の一部自治体で行われている不透明な行政運営への批判が加わって、武田氏の票を減らす結果につながったのではないだろうか。

応援演説の効果は?

武田氏の応援に駆け付けたのは、11区の議席をめぐり過去4回も激しく争った因縁がある元衆議院議員の山本幸三氏だった。山本氏の支援者はもともと「反武田」の人が多かったと聞く。今回の応援について、ある自民党の関係者は「むしろ逆効果だった。なぜ二人で立ったのか理解できない」と話していた。さらに、公明党の幹事長の応援を受け、小池百合子東京都知事から応援メッセージをもらっていた。

一方、村上智信氏の応援には、11区にある3市のうち豊前市と田川市の市長がマイクを握った。村上卓哉市長は、去年4月の田川市長選挙で武田氏が推す前職(大任町・永原町長の親族)を破って当選している。村上卓哉市長は「1年半前にこの田川市で巻き起こした旋風。あの風を今度は国政に向けて起こしていただきたい」と訴えた。

猛烈な逆風「何と戦っているのか分からない」

総務大臣や国家公安委員長などを歴任した武田良太氏。抜群の集金力を誇り、いわゆる大物政治家として、支持者からは「将来の幹事長・総理候補」という声も上がっていた。その武田氏、接戦が伝えられるとそれまでの強気の発言から一転する姿も見られた。

武田良太氏 23日
「戦えば戦うほど猛烈な逆風を感じる選挙であります。何と戦っているのか分からない重い空気が漂う」

武田氏が戦っていた重い空気こそが、「民意」なのではないだろうか。疑惑を持たれた中で、どれだけ誠意を尽くして説明してきたのかが問われていたはずだ。

マイクを使った選挙活動ができる最後となる26日の午後8時前の「マイク納め」で武田氏は選挙戦を振り返って、「どんよりした空気の逆風の中の選挙」と表現していた。

裏金問題、統一教会との関わり、そして大任町長との関係。いずれの敗因にも共通するのは、不透明、そして説明責任を果たさない姿勢だ。

「どんよりとした空気」こそが、説明が十分に尽くされないことで有権者が武田氏と自民党に対して感じていたものかもしれない。

開票当日 異例の取材拒否

武田良太氏の陣営は27日の開票当日、選挙事務所でのRKBの取材と中継を拒否すると伝えてきた。

10月25日に放送したニュースの表現が理由だとしている。

裏金問題で処分の自民・元総務大臣が大接戦 対立する新人候補を応援する地元首長も【福岡11区】(2024年10月25日)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/rkb/1511781

「派閥から受けた寄付金1926万円を政治資金収支報告書に記載していなかった問題で1年間の党の役職停止処分を受け、比例との重複は認められませんでした。」と、「不記載」と表現したことが問題だという。

武田氏側の主張は「他の議員のように裏金づくり目的の不記載ではなく、自らのパーティ売上として計上した『誤記載』だ」というものだ。

他のメディアが事務所内から中継する中、私たちRKBは、事務所の敷地外から中継をした。

不十分な説明、そして異例の中継拒否。こうした姿勢を続ける武田氏に、「どんよりした空気」を晴らすことができる日は来るのだろうか。

RKB毎日放送 記者 今林隆史

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