10月中旬、山と川に囲まれた奈良県吉野町で、ネットが使えない環境で過ごす2泊3日の「オフラインキャンプ」が行われました。兵庫県立大学の竹内和雄教授(59)らが主催し、10年目の今年は9歳から18歳までの17人が参加。“スマホ依存”の自覚があるという高校2年生の妃愛さん(16)と、高校1年生のたいきくん(仮名・15)に密着しました。

「ご飯だけに集中するのがつまらなくて」食事中もスマホ 勉強も手につかず…

 キャンプ前、妃愛さんの自宅を取材すると…夕食を出されても、まずはスマホ。数分後ようやく食事に手をつけますが、視線はずっとスマホです。

 (妃愛さん)「ご飯中にご飯だけに集中するのが、なんかつまらなくて。それだったらYouTube見ておこうかなって」
 (母・直子さん)「30分以上、手が止まって見入ってたりするので。最初のころは注意していたんですけど、高校生はもう聞かないんで…」

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 寝るまでの間、片時もスマホやゲーム機を手放さない妃愛さん。家で勉強が手につかず、学校の成績は右肩下がりです。こうした状況から抜け出そうと、自らキャンプへの参加を決めました。キャンプで変わることができるのでしょうか。

 (妃愛さん)「『触りたい』と『触っちゃいけない』という立場にいるときに、『触りたい』が毎回勝つので、それに打ち勝てるようになりたいです」

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 高校1年生のたいきくんも、スマホ依存に悩む参加者の1人です。

 (たいきくん)「(Q1日最長何時間スマホを?)24時間です。(Q学校はどうするの?)行ってないです。勉強とか面倒くさいことするよりは、ゲームしてるほうが楽かなって」

 中学生の頃からスマホゲームにのめりこみ、今年の夏からは学校に通えなくなりました。

「スマホよりみんなで遊ぶほうが楽しい」川遊び・カレー作り…“リアル”の楽しさを体験

 吉野町のオフラインキャンプでは開始早々、スマホやゲーム機が回収されます。キャンプが終わるまで、スマホを使えるのは1日1時間だけです。

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 (妃愛さん)「つら~。またね~」

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 キャンプの狙いは大きく2つ。1つ目は、ネットにはない「リアルの楽しさを知る」ことです。まずはみんなで、アユのつかみ取りを体験。妃愛さんも、年下の子どもたちと一緒に大はしゃぎします。

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 夕方のフリータイムでは、“スマホ部屋”で1時間だけスマホやゲームを使うことができます。いの一番にスマホに手を伸ばしたのは妃愛さん。

 (妃愛さん)「うわ~いいね。久しぶりって感じ」

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 しかし…5分も経たないうちにスマホを置いて外に遊びに行ってしまいました。その後、部屋に残ったのは小学生2人と、たいきくんです。

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 そして、1時間のフリータイムが終わります。

 (竹内教授)「あと5分くらいやで~。1時間ですぐやめられて、君たち偉いなあ」
 (小学生)「けど家では何時間もやってる…」
 (竹内教授)「なんで(ここでは)やめられるの?」
 (小学生)「わかんない」

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 主催する竹内教授はキャンプ中、あえて「スマホを使える時間をつくっている」と話します。

 (竹内和雄教授)「これからの時代、ネットを使わないというのも無理なので、ネットとどう向き合うかを冷静になって仲間と一緒に考える。10数時間やってる子が1時間でスパっとやめる。それがどの子にとっても自信になる」

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 夕食はキャンプの定番、カレーをみんなでつくります。家では食事中、スマホばかり見ていた妃愛さんですが、ここでは話が弾みます。

 (妃愛さん)「川遊びしてる時の、みんなが楽しんでる時とか、ふとした瞬間に(スマホで)写真撮りたいなと何回か思ったりしました。きょう1日過ごして、スマホよりみんなで遊ぶほうが楽しいかなと思って、自然とスマホから離れることができました」

「リアルでどうなりたいんだ」現状と向き合い“目標”を設定

 キャンプの狙い、2つ目は「自分の現状と向き合い、今後の目標を設定すること」です。まず、スマホの利用状況について話し合います。

 (参加者)「たぶん最高で15時間くらいかな。もっとやってる時もあるかも」
 (参加者)「20時から始めて昼12時までやる」
 (妃愛さん)「私はテスト前とか死ぬほど触っちゃう」
 (参加者)「わかるわかる」

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 嫌なことから逃げるためにスマホに熱中してしまうことがわかってきました。そのうえで、依存とどう向き合えばいいのか、竹内教授や指導係の大学生と相談しながら目標を決めていきます。

 (竹内和雄教授)「君は『リアルでどうなりたいんだ』と聞く作業をしています。リアルでこういう目標を達成するために、ネットはどうするかという順番でないと、子どもたちは変わっていけない」

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 2日目のフリータイムでも、スマホ部屋にたいきくんの姿が。ところが…

 (たいきくん)「(Qきょうは出るの?)はい。(Qどこに?)体育館。(Qなぜ気持ちの変化が?)いや、なんとなく」

 このあと、たいきくんがスマホ部屋に戻ることはありませんでした。

リアルの目標は?ネットの目標は?

 最後の夜。みんなでキャンプの感想を話していた時、たいきくんが口を開きました。

 (たいきくん)「一緒にお箸づくりをしたりして、ご飯の時も小学生の子にもしゃべりかけて話してたりしたから…楽しかったです」

 そして、あっという間に迎えたキャンプ最終日。迎えに来た保護者の前で、1人ずつ自分の目標を発表します。

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 (妃愛さん)「リアルの目標は、受験勉強を頑張ることです。ネットの目標は、自分の欲に負けずに自分で自分のことを管理することです」

 キャンプで友達と会話することの楽しさを知った、たいきくんは…

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 (たいきくん)「リアルの目標は、週に2回学校に行くことです。ネットの目標は、朝から学校に行くために寝る時間を調節することです」

 発表を聞いた、たいきくんの母親は…

 (たいきくんの母親)「現実味のあるしっかりした目標、やろうと思える目標を言えていた。週に2回と書いていても、週1回でも行こうという気持ちさえあればいいかな」

 スマホから離れて己と向き合った3日間。これからの人生にどんな効果をもたらすのでしょうか。

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