1172人。
この数字は去年、新潟県内で行方不明になった人の数です。
このうち183人が認知症や認知症の疑いがある人でした。高齢者の5人に1人が認知症になると言われる今、行方不明者をどのように守ったらよいのでしょうか。
「ガードレールの切れ間から行った(落ちた)んじゃないかということです」
阿賀野市に住む土岐睦さん(59)です。去年10月27日、同居していた母・フヰ(ふい)さんが、この用水路に落ちて亡くなっているのが見つかりました。
土岐睦さん
「ちょうど寒くなるのと境目くらいでした。病院から退院してくるときも『寒くなったから毛布を1枚買ってくれ』なんて言われまして」
当時84歳だったフヰさん。前日は家族と一緒に夕飯を食べ、いつも通り布団に入りましたが、午後10時ごろに家族に何も伝えず裏口から家を出たのです。
履きなれた長靴でシルバーカーを押して向かったのは行き慣れた場所でした。
土岐睦さん
「ここに小さいころ母と一緒に自転車で来てまして、喉が乾いたら缶ジュースをもらったりお菓子をもらったり…そういう思い出があって、ここに来たのかなって」
母・フヰさんは適応障害と診断されていて、認知症の疑いもありました。家族や防災無線を聞いた地域住民がフヰさんを探しましたが、翌日の朝、近くに住む人がフヰさんの遺体を見つけたのです。
土岐睦さん
「仕事先に電話がきまして『母がいなくなった』ということで、その後『母が見つかったよ。亡くなったよ』知らせをもらって…本人の顔を見るまで本当だと思えませんでした。対策をみんなで考えればよかったなと思って後悔してます」
過去10年間で新潟県警が受理した行方不明者の数を見てみると、多いときは1年間で1200人以上に上っていて、去年は1172人でした。このうち、認知症や認知症の疑いがある人は、毎年200人前後となっています。
厚生労働省の発表によりますと、2025年には認知症の高齢者の人数はおよそ700万人となり、65歳以上の高齢者のおよそ5人に1人に達すると見込まれています。
そんな高齢者を地域で見守るため、新潟市江南区である取り組みが行われています。
新潟市江南区役所 健康福祉課 片山智和係長
「江南区見守りシール交付事業です。1人で自宅に戻れない高齢者を対象にしています。高齢者が行方不明になった場合の早期発見・早期帰宅を支援する事業」
利用が認められると、アイロンでつけられるラベルとシール合わせて40枚が交付されます。そこには二次元コードが記されていて、これを行方不明になる恐れがある人の服やカバン、杖などに貼っておきます。
もし、その人が街中で困っていた場合、発見した人が二次元コードを読み取ると、事前に登録したニックネームや性別・年齢、身体的な特徴などが表示されると同時に、家族の元に通知が行き、発見者と家族がチャット形式でやりとりできるようになります。これにより、警察や行政を介さず家族が迎えに行けるようになるのです。
新潟市江南区役所 健康福祉課 片山智和係長
「個人情報の公開がいらないこと、24時間対応ができること、高齢者にとって帰宅までのストレスが少ない事がメリットです」
このシステムは全国で300を超える自治体が導入。新潟県内では南魚沼市や糸魚川市、阿賀町で導入されていて、新潟市江南区ではこれまでに34件の利用申請がありました。
新潟市江南区役所 健康福祉課 片山智和係長
「見守りシールを使っている方々からのアンケートでは、安心感があるとの回答をいただいています」
見守りシールを利用している男性は、66歳の妻にシールをつけてもらっています。
妻が認知症の男性(69)
「安心はありますね。これがあれば、すぐ連絡が来ますので…」
男性の妻は10年前、56歳の時に『前頭側頭型認知症』と診断されました。
「本当に逆方向へ道が分からなくなるというのは、ちょっと信じられないというね、そういう状況でした」
5年前、ひとりで買い物に出かけた妻は帰り道、自宅と逆方向に歩いて新潟バイパスに侵入。その時は警察に保護され事なきを得ましたが、その2週間後にも再び行方不明に。およそ3キロ離れた新潟市東区のJR越後石山駅まで1人で歩き、娘が見つけて保護しました。
それ以降、男性は妻にGPSを持たせるようにしました。裏には見守りシールも貼ってあります。また、カバンにもシールをつけ、シールを入れたバッジも手作りしています。
しかし2年前、妻はまた行方不明になったのです。今度はバスに乗って病院まで。
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