9月28日、東京・大田区内の集会室で「大田区防災アプリを使って、日頃の備えと災害時の行動を考えよう」というイベントが開かれました。

このイベントは、大田区を拠点に地震や風水害などの被災地に出かけてボランティア活動を行っている「縁(えにし)プロジェクト」と、精神障害・発達障害のある当事者と支援者、研究者などの学びの場「リカバリーカレッジおおた」の共同企画で開催され、参加者20人のうち、約半数が障害のある当事者でした。

大田区の防災アプリを精神障害・発達障害の当事者と使ってみる

大田区防災アプリ

イベントは2部構成。
第1部「防災アプリを使ってみよう」は「縁プロジェクト」の防災士・新倉太郎さんの指導で、大田区が配布している防災アプリを参加者みんなで使ってみる講座でした。

防災情報アプリは国土交通省や気象庁をはじめ、様々な官庁・自治体・企業などが用意していますが、日本全国など大きなエリアをカバーするアプリは自分の住む地域の情報へアクセスするのに数回のステップを要する場合もあります。

その点、区が用意する防災アプリは区民の住む地域の気象・災害情報に特化していて、すばやくアクセスできる利点があります。

またSNSのような「コミュニティ」機能は、実際に仲間を作っていっせいに使ってみて理解できるコンテンツなので、イベントに参加した人から「初めて使って便利さが実感できた」という意見がありました。

大田区に限らず、東京都の各市区町村は地域に特化した防災アプリを用意していますが、実際に入手して操作してみたことのある人は限られると思います。

みなさんもぜひ、住んでいる区市町村の防災サイトを探してみてください。

講座を担当した「縁プロジェクト」の新倉太郎さんに、イベントを終えた感想を聞きました。

「縁プロジェクト」の新倉太郎さん

「縁プロジェクト」の防災士・新倉太郎さん
「今日のイベントはスマホに慣れている人が多かったので、進めやすかったです。ご高齢の方を中心に施設などで講座をやる時は、レジュメを作ったりしてもう少していねいな進め方をする時もあります。

アプリ自体が健常者を基本的な対象にして作っているから、まだまだマイノリティの人たちにとって使い勝手がいいとは全然思えないし、何が使いにくいのかも私たちも理解しきれていないところがあります。

ただ、それをどんな切り口で障害をお持ちの方の人たちにも届くように普及させていこうかっていうのは、講座を1回1回やるごとに、こちらも勉強しているところです」

また、精神障害・発達障害のある当事者からは「自分たちが参加する前提があるイベントなので、当事者仲間や障害を理解する人と一緒に学べたのが良かった」という声がありました。

精神障害・発達障害は外見では分かりにくく、偏見を持っている人もいるため、地域グループなどで行われる防災イベントでは当事者が障害を言い出しにくい面があります。

そのため、障害に理解のある人たちと参加するイベントのほうが緊張感が小さく学びやすく、大事な機会だと感じた方もいました。

精神障害のある人の経験から、防災や避難生活を考える

第2部は、「リカバリーカレッジおおた」と協力関係にある一般社団法人「精神障害当事者会ポルケ」が製作した映像「ふだんからの防災 精神障害のある人の経験から学びあおう」を見て、防災や避難生活を考えるワークショップが行われました。

「ふだんからの防災」は約26分の映像で、当事者の視点で発災直後の備えや避難生活で起こりやすい問題をチェックしていきます。

また、2016年の熊本地震で被災した当事者の経験を聞いて、抱えている困り事の対策を考えたり、障害のない人にも起こりそうな困りごとを話し合うことを促したりするグループワークなどの構成になっています。

当日の資料より

たとえば熊本地震の時、当事者の仲間数人と自分のアパートで避難生活をした須藤さんは、仲間が避難所に入ったものの感覚過敏がひどく、身体的な症状が悪化したために避難所にいられなくなったため、須藤さんの自宅に来てもらった、という経験談を話しています。

映像の解説によれば、こうした話はかなりの件数があったということです。

避難所にいられなくなってしまう理由のひとつに、避難所では障害の理解を求めること自体が難しくなってしまうことがあるといいます。

そのために日頃から障害の伝え方を考えておくべきだということです。

当日の資料より

そうした問題も含めて、映像では5つのテーマが提示されます。
(1)発災直後のための準備
(2)避難生活の過ごし方
(3)障害をどう伝えるか
(4)避難先を過ごしやすくするには
(5)ふだんからの備え

映像でこれらのテーマが提示されたあとにみんなで意見を出してディスカッションします。

大きな紙を広げて、当事者もそうでない人も、考えられる困りごとやアイデアを付箋に書き出して貼りつけ、対応をみんなで話し合います。

当事者の困りごとを知って、障害のない人も避難所生活を想像し、自分も同じような問題で困りそうという人がいて、当事者へ寄り添うとともに、避難生活の困難を自分ごととして考えられるようになる効果がありました。

映像制作をしたポルケ代表・山田悠平さんは映像を作ったきっかけをこう話しています。

一般社団法人精神障害当事者会ポルケ 代表 山田悠平さん
「こと精神障害に関してはどうしても偏見の問題とかもありまして、他人ごとにされやすいっていうのもあると思うんですね。

そこでの困り感ということに関しても、特別な状況の人が困ってることだよねっていうふうに思われがちなこともあるんですけれども、私たちの経験を共有する中で、発想の逆転ではないですけれど当事者の経験から、防災全般のあり方をより考え直すようなきっかけだとか、全体化に向けたメッセージを探って、出していくようなグループワークも、今回のプロジェクトの大きな目的かと思います」

グループワークに参加して、困りごとの書き出しをしてみると、当事者でない人にも、音に弱い、臭いに弱い、人間関係が心配など、当事者と同じ不安が示され、当事者の経験から、より人に寄りそった防災、避難のありかたを考えるワークショップになったと思います。

グループワークのファシリテーターをつとめたポルケの理事でNPO法人「凸凹ライフデザイン」理事長で精神障害・発達障害当事者の相良真央(まお)さんはワークの効果を次のように語っています。

一般社団法人精神障害当事者会ポルケ理事でNPO法人凸凹ライフデザイン理事長の相良真央さん
「たとえばみんなざわざわするのはそれはストレスですよね。ストレスなんだけど、私たちはそういったものにいち早く、『これは自分にとってやばいぞ』って気がつきやすかったりもする。そういった経験を障害のある立場の人だけじゃなくて、地域の人とも一緒に考えていく。避難所をどう変えていくべきかとかの話し合いにつながるんじゃないかと思います」

一般社団法人精神障害当事者会ポルケ理事でNPO法人凸凹ライフデザイン理事長の相良真央さん

精神障害・発達障害は障害が分かりにくいため、周りから「そのぐらい我慢しろ」と厳しい言葉を言われることがあるそうです。

グループワークをしてみて、当事者だけでなく障害のない人も含めて、我慢するのではなく、避難生活をより良くするためにどんな配慮が必要か、いろいろな角度から考えるきっかけになりました。

リカバリ―カレッジおおたは防災に限らず当事者と障害のない人が一緒に参加できるイベントを随時開催しています。また精神障害当事者会ポルケは、「ふだんからの防災」のDVDの貸出しもしています。

参加者のみなさん

(TBSラジオ「人権TODAY」担当:藤木TDC)

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