解消すれば誰もがうれしい交通渋滞。兵庫県の第二神明道路に接続する加古川バイパスの“慢性的な渋滞”を緩和するため、いま新たな道路計画が進んでいます。しかし、この計画で「住宅地を横断」することをめぐり、地元住民が憤っています。
閑静な住宅街の暮らしを脅かす計画「播磨臨海地域道路」
兵庫県高砂市西畑。海岸から1.5kmほど北にある閑静な住宅街です。50年以上ここで暮らす百々雅夫さん(72)は、ゆっくりと家の周りを散歩をするのが日課です。
(百々雅夫さん)「一番好きな場所やねここが。何にも考えんとぼーっとしておける」
ところが、その暮らしを脅かす計画が持ち上がっています。
(百々雅夫さん)「あの辺りからドーンとここに来るわけ。ある日突然、上に道路が来て、もう景観も何もあったもんやないわ」
市内を通る「加古川バイパス」などは、激しい混雑が慢性化しています。そこで渋滞解消などを目的に整備が計画されているのが「播磨臨海地域道路」です。
神戸市西区と太子町を結ぶ全長約50kmの自動車専用道路で、現在は神戸・姫路間約32kmの事業計画が進められていて、2050年ごろの開通を目指しています。この道路が百々さんの住む町を横断することになるというのです。
「なんでわざわざそこなん」4つのルート案から住宅街を横断するルートに決定
(百々雅夫さん)「これが中学校、向こうが校舎で体育館。このあたりから、うちの上、奥の2軒をぶった切って公園のほうへ抜けると」
高砂市が発表したルート案では、新たな道路が小中学校や住宅街などを横切る形で計画されているのです。
(記者リポート)「こちらの住宅街、並んでいるほとんどの家が立ち退き対象ということです」
百々さんの家も立ち退きエリアのど真ん中です。町が一変してしまうかもしれない道路計画、近くに住む人は戸惑いを隠せません。
(近隣住民)「イメージできない。家の前に大きなすごい道路ができるでしょ。想像するんですよ、窓を開けたら目の前に道路が通ってるんやねってイメージしたら、ああーってやっぱり思いますわ」
(近隣住民)「地元の人間やったら反対すると思うわ。今まで生活してきた町で静かな町やから。町のど真ん中に高速道路が通る言うたら、音とかあんなんでも、窓なんか開けられへんと思うわ」
道路計画を主導する国は当初、内陸部や沿岸部を通るおおまかな4つのルート案を検討候補に挙げていましたが、去年秋、内陸部を通るルート案に決定。
その後、国からの提言を受けた高砂市が、住宅街を横断する詳細なルート案を作成しました。
百々さんは、去年11月に市が開いた地元住民への説明会で、「道路が町を横切る」と初めて聞きました。
(百々雅夫さん)「海沿いを通って行くのだろうなという感じでいたので、住宅地の真上を、まさか自分の家の真上を通るとは思わなかった。なんでわざわざそこなんっていうのが一番の感想やね」
高砂市が抱える事情とは…
市民生活への影響が避けられないのに、なぜ住宅街を通るルートが選ばれたのか。そこには、高砂市が抱える事情がありました。それはPCB埋設土問題です。
かつて「夢の化学物質」と呼ばれた『PCB』(ポリ塩化ビフェニル)。熱に強く、電気を通さないなどの特性から、さまざまな工業製品に使用されていましたが、1968年、食用油に混入し健康被害を引き起こしたことから有毒性が明らかになり、製造が禁止されました。
(百々雅夫さん)「PCBが埋まっているんです。盛り土。PCBが埋まっているから(道路を)通せないって言っている所」
当時、国内のPCBの9割以上を製造していた高砂市には、今も沿岸部にPCBに汚染された土が埋められているため、海沿いに道路をつくることができないのです。
市は、PCBの問題はあくまでルート選定の理由のひとつで、渋滞緩和効果や地域への影響も考慮してルートを決めたとしています。
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