シリーズでお伝えしている台風19号災害から5年。
今回は、長野市で浸水被害を受けた企業と工業団地の取り組みです。


決壊した千曲川の堤防からおよそ1.5キロ。

長野市穂保で特殊樹脂の開発や製造を行うニッキフロンも、5年前の台風19号により大きな被害を受けました。

本社と工場が最大2メートルほど浸水。

前の年に完成したばかりの新工場も水に浸かりました。

ニッキフロン春日孝之社長:
「流れてきた泥水に全て浸かって、一瞬にして工場全ての生産機能が使えなくなってしまった」

稼働を目前に控えた新しい工作機械にも泥水が入り込みました。

ニッキフロン春日孝之社長:
「そのあと1か月近く泥のかき出し、選別が延々とある」


従業員200人余りが総動員で復旧作業にあたったと振り返ります。

社長室 東純一さん:
「これが50センチかさ上げしている工場になります」

あれから5年。

敷地内には、新たな工場が建設されていました。

社長室 東純一さん:
「電気だけは被災しない、電気だけは災害に遭わないということで、2階にあげた(ことが)一番の特徴」


被災の経験を生かした工夫が、随所にちりばめられています。

通常、地上に設置されることが多い変電設備ですが、5年前、浸水で使えなくなり、復旧に時間がかかったことから、この工場では2階に設置。

更に、工場内部の機械の配置も、大きく変えました。

社長室 東純一さん:
「こちらの2台は被災の時に復旧しやすかった2台になります」
「心臓部がどこにあるかで水に強いかどうか」

1階部分に設置しているのは、樹脂を加工する工作機械。

モーター部分が高い位置にあるため、修理で対応することができました。

階段を上ると…

社長室 東純一さん:
「とにかく水に弱かった焼成炉になります」


2階に設置されていたのは、9台の電気式オーブン。

原料をプレスして、オーブンで焼き上げることで、素材が完成しますが、このオーブンが使えなくなったことで、生産ラインが止まった経験を生かし、2階にあげました。

この工場で作っているのは、現在主力となりつつある、半導体の製造装置の部品で、売れ行きは好調。

会社全体の業績を引き上げ、ここ数年、被災前を超える売り上げを記録しています。

災害から復旧・復興を果たし、5年間で成長に繋げることができたニッキフロン。


そのカギは、いざという時に備えたあるマニュアルにあります。

BCP=事業継続計画。

災害などの緊急事態が発生したときに、企業が損害を最小限に抑え、事業の継続や復旧を図るための計画のことで、この会社では2011年の東日本大震災を機に、策定に取り掛かりました。

その直後、自社のタイの工場で水害が発生。

計画策定の重要性を再確認したといいます。

春日孝之社長:
「BCPが策定されていてマニュアルがありましたので、特に初動、まず初めに何をするか、現地確認とか、従業員をいつからどのように復帰させるとか」
「起こっていることに対して動揺してしまうのではなくて、起こってしまった現実を受け入れながらマニュアルに従って粛々と動いたので、初めの1週間くらいは取り乱すことなく、復旧への取り組みがスムーズに動いていった」

その後、国や県の補助金を活用しながら、復興計画に取り掛かり、被災をきっかけに、新規事業への展開も加速させました。

春日孝之社長:
「大きなダメージではありましたけど、一旦失った状態からスタートしないと。根本的にできなかった将来の競争力を生み出す工場づくりは結果的にできた」
「被災前より今の方が、供給能力、競争力が強化している、そういう意味ではいい意味で生まれ変わった」

春日社長が、次に取り組んでいるのが、会社がある、北部工業団地全体の防災力の強化です。

委員会の参加者:
「スピード感をもってそれに対処できるというプラスの面が…」

この日集まったのは、同じ工業団地にある各企業の若手経営陣。

業種や規模を超え、連携を深めることで、次の災害に備える考えです。

参加者:
「ツールは運用してほしいなと。長野市の災害情報アプリでも分かるけど、長沼1号排水路の状態など」
「情報をある程度流すのはかなり有用性がある」


現在は、7社が月に1回集まり、工業団地全体の連絡ツールの開発や、いざという時の避難経路の確認などを行っています。

竹内製作所 竹内優社長:
「1社では想定していない意見が上がってくる。各社ではどうするか参考になる」
「経験したことを連携して話し合える。両面から役立つ」

カイシン工業 堀洋平常務:
「経験者ならではの意見がたくさん出てくる。価値観の違うみんなで話すのがいい」
「自分たちがどうすればいいのか幅が広がる」

災害から何を得て、どう成長につなげるのか。

新たにできた企業同士の連携が、地域の防災力向上に繋がっていきます。

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