2022年4月、北海道知床半島沖で観光船「KAZUⅠ(カズワン)」が沈没した事故。
乗客乗員人20人が死亡し、いまだ6人が行方不明のままとなっています。
「KAZUⅠ」の元船長(2024年9月の取材)
「もう知床の海に出たいとは思わない」
こう語るのは、事故の2年前までの5年にわたり「KAZUⅠ」の船長をしていた男性です。
2021年の3月、観光船のシーズンが始まる1週間前に、桂田社長から一方的に「もう来ないでくれ」と電話があり、最終的に元船長を含めベテランスタッフ3人が契約打ち切りとなりました。
今年9月の取材で元船長は、あの事故は起こるべくして起きたと振り返ります。
元船長
「船長を新たに雇ったところで、知床の海のことを知らないわけだから。船の操縦にしても、状況判断にしても、教えてくれる人がいないわけだから、当然そうなる。何も引き継ぎもしてないだろうし、それなりの教育もしてないだろうし。僕らが持っていたノウハウを彼らには引き継ぐこともできなかったわけだから」
元船長はさらに、「港に戻ってくるチャンスは2度、3度あったはず」と、事故当時の船長の判断に疑問を持ち続けています。
あの日、「KAZUⅠ」は、天候が荒れたら引き返すという「条件付き運航」で斜里町のウトロ漁港を出航しました。
午後から天候が荒れるという予報が出ていたのにもかかわらず、片道約3時間半かかる知床半島の先端部の知床岬を目指して運航していました。
「KAZUⅠ」元船長
「当日の出航する時間の映像を見た感じだと、僕が船長だったとしても出航していたと思う。だから出航したことに関して僕は反対も肯定もしない。ただ、出航するのであれば、最初から岬までのコースは捨てて、遅くても正午までには帰ってこられるような運航しないとだめだ」
海上保安庁は、事故から2年5か月後のことし9月、運航会社社長の桂田精一被告61歳を業務上過失往来危険などの容疑で逮捕しました。
そして10月9日、釧路地検は、運航管理者としての義務を怠って船を沈没させ、乗客乗員を死亡させた業務上過失致死の罪で起訴。
海難事故で、直接船を操縦していない運航会社の社長が刑事責任を問われるのは、極めて異例です。
今回の事故では、桂田被告に加えて、当時の船を操縦していた豊田徳幸船長(当時54)も容疑者死亡のまま業務上過失致死容疑などで書類送検されています。
元船長は、5年間この船の舵を取った経験者として、口惜しさをにじませます。
「KAZUⅠ」元船長
「舵を持って出ていったのは船長本人なんだから、出ってしまった以上、あとは船長の判断しかない。海に出てしまったら関係ないから。船長の判断能力に尽きると僕は思います」
水温3度の冷たい知床の海に沈んだ「KAZUⅠ」。
事故を受けて、知床の観光はいまだ影響が続いていて、安全対策の徹底が求められています。
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