名古屋市で非正規公務員として働く保育士ら約1200人が、来年3月末で「雇い止め」に遭う恐れがあるという。原則1年の雇用期間の更新回数が、市の定めた上限に達しようとしているためだ。不安を抱える保育士や、支援する愛知県労働組合総連合(愛労連)などが4日、東京都内で記者会見を開き、雇用の継続や更新上限の撤廃を訴えた。(山田雄之)

◆「辞める、辞めないは自分の意思で決めたい」

 「保育士としての人生を『不合格』の烙印(らくいん)を押されて終わりたくない。辞める、辞めないは自分の意思で決めたい。大切な子どもたちと接するための知識や経験を積み、働き続けてきた誇りを知ってほしい」。名古屋市内の保育園で30年以上勤めてきた保育士の尾崎よしみさん(68)は会見で声を強めた。

雇用継続を求めて記者会見する保育士の尾崎よしみさん(左)ら=東京・永田町の衆院第2議員会館で

 保育士らが雇い止めの不安を感じているのは、2020年4月に始まった「会計年度任用職員(非正規職員)」制度の雇用期間の上限が迫っているためだ。同制度は、自治体ごとにバラバラだった非正規雇用制度を一本化したもので、処遇改善のために賞与などを出せるようになった一方で、自治体側の判断で再任用の回数に上限が設けられるようになった。  名古屋市では更新上限を4回までとしており、来年3月末に5年目の「満期」を迎える非正規職員が出る。その後は、筆記や面接などの公募試験に合格しなければ、失職する。市によると、市立保育園で働いている非正規職員計約1800人のうち、7割弱の約1200人が来年3月で雇用期間が終わる。

◆各地で相次ぐ「非正規公務員の雇い止め」

 市は「試験に合格してもらえれば。まったく(雇用継続の)チャンスがないわけではない」と説明する。だが、すでに他の自治体では、非正規職員の雇い止めが現実となっている。  東京都ではスクールカウンセラー1096人が2024年度に契約更新して働くために公募試験を受けたが、250人が雇い止めの通知を受けた。うち10人が任用の拒絶は不当だとして、地位確認や損害賠償などを求め、近く東京地裁に集団提訴する予定だ。埼玉県狭山市でも22年間にわたり市立図書館の司書として働いていた60代女性が2023年3月末に雇い止めに遭った。  もともと国の機関で働く非正規公務員については、更新上限を2回とする努力義務があった。自治体を管轄する総務省が運用マニュアルで同様の上限回数を記しており、多くの自治体が影響を受けた。

◆流れは「上限撤廃」に傾いているが

 しかし、国は今年6月、「優秀な人材の流出につながる」として非正規公務員の再任用の上限回数を撤廃した。これに合わせ、総務省も上限の表記を運用マニュアルから削除し、各自治体に通知した。

名古屋市役所(資料写真)

 通知を受けて、上限を撤廃する自治体も出てきた。労組などでつくる「なくそう! 官製ワーキングプア東京集会」が実施した都内の自治体への調査では、任用回数の上限を撤廃、または対応を検討するとした自治体が約7割に上った。  ただ、名古屋市の担当者は取材に「制限を撤廃する状況には現時点では至っていない」と話し、公平性などの観点から公募試験が適切との認識を示した。  会見に参加した北海学園大の川村雅則教授(労働経済)は「公共サービスの担い手は継続が大切。人がころころ代われば公共サービスの質に関わってくる」と指摘。総務省の通知後に上限を見直す自治体の動きに触れて「名古屋市が逆の流れをつくってしまう恐れがある。人手不足の中で、公募を実施するのは地方公務員法がうたう『民主的かつ能率的な運営』に逆行しているのではないか」と話した。 

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