2014年9月27日に発生した御嶽山の噴火災害からあすで10年。山頂から生還した男性は、犠牲となった仲間をしのび、御嶽山麓に足を運び続けています。

神奈川県の里見智秀(さとみ・ともひで)さん。24年7月、御嶽山の山頂を目指していました。

里見さん:
「もうまだまだ遠いです…10年前も『おう!もう山頂見えるよ』って言ってたけど、全然違ったんだよな…」

里見さんは、10年前の9月27日、職場の仲間と9人で御嶽山を訪れていました。

午前11時52分、噴火した時は山頂にいました。

里見さん:
「噴石がその辺の地面に着弾したときに、ドンって音がするんですけども、ドンという音と同時に足に地響きみたいな形で伝わってくるんですよね」

里見さんは、噴火に巻き込まれながら生還しました。
しかし、一緒に登った仲間のうち5人が亡くなり、いまだ1人は行方不明のままです。

里見さんはこの10年間、御嶽山やふもとの木曽に繰り返し足を運んできました。

里見さんは「ここに自分が来ることによって、自分でも『忘れてないよ、忘れないよ』っていう意味合いもある」と話します。

1つめのピーク、王滝頂上に到着。
ここから、山頂の剣ヶ峰に向かう登山道「八丁ダルミ」に入ります。

里見さんは「八丁ダルミ付近を歩いた時に噴気があがっているのが見え、御嶽山が活火山だと認識した」と言います。そのことが、噴火直後の素早い避難行動につながったと振り返ります。

噴火当時、山頂の剣ヶ峰では「甲高い大音量のパンという音が聞こえた」直後に、噴煙が上がるのを見て噴火したことを認識。里見さんは、「焼け死ぬ前に、もしかしたらどこかに避難すれば命が助かるかもしれないと思った」と言います。

里見さんは、とっさに近くに置いていたザックとストックを手に取り、目に入った御嶽神社の祈祷所の棚の下に潜り込みました。

里見さん:
「徐々に視界がきかなくなって、漆黒の暗闇になっていく。空気もだんだんあったかくなってきて、何も考えずにとにかく、生きていたいと思っていました」

その時、逃げ込んで身を守った神社の板を「守り神」として今でも大切にしています。

噴火後、被災した祈祷所は解体され、板も処分されるはずでしたが、木曽に通い続ける中で知り合った地元の人を介して譲りうけたと言います。

当時身につけていたものも、保管しています。ザックやズボン、軍手などにはこびりついた灰がついたままです。

里見さんは24年、噴火後初めて顔や名前を明かしてメディアの取材に応じました。


里見さんの自宅のある神奈川県から御嶽山までは、片道およそ270キロ。

噴火の翌月から2年間、月命日の毎月27日には欠かさず木曽に通いました。

噴火から10年となる24年、初めて顔や名前を出してメディアの取材に応じました里見さん。その胸の内をこう明かします。

里見さん:
「よく10年目の節目とか言いますけども、僕にとってはまだ本当に通過点だけであって、御嶽山噴火したんだっていうのを教訓として忘れられないようにしたいなっていう思いが、ここにきて強くなった」

24年7月、仲間の月命日に御嶽山を訪れた里見さん、山頂に到着すると、背負ってきたカップ麺を並べます。

里見さん:
「噴火の日、昼ごはん食べられなかったんですよみんな。それもあってここに来るときは、こういったカップ麺を仲間の人数分持ってきて、ここで食べようっていうそういう気持ちを持って」

噴火が起きた11時52分、里見さんはこの10年、仲間6人と向き合い続けてきました。

里見さん:
「もう一方的な10年。それは仲間の6人からの声は僕には届かないんで。僕の声を、気持ちを届けるだけであって、それで僕はいいと思ってるので」「やっぱり来ないと気持ちの整理がつかない。来てよかった、来れてよかったというふうに毎年思いますし、また来たことによって、また来年頑張ってこようと思いますし」

あの日を、仲間のことを忘れない。10年間変わらぬ、誓いです。

御嶽山の麓、長野県王滝村の松原スポーツ公園には、噴火の3年後に、慰霊碑が建てられました。石碑には犠牲になった人たちの名前が刻まれています。里見さんは仲間の名前を1人ずつ触れてます。

里見さん:
「ここに刻まれてる方の後ろには親族の方、友人とかもいらっしゃるでしょうし、絶対悲しんでるのはこの数以上だと思います」

里見さんは10年目の今年、新たな一歩を踏み出しました。


里見さんは、今年3月、火山防災の知識を広めるため、噴火災害を機に活動が始まった「御嶽山火山マイスター」となりました。

マイスターとして「生還体験の伝承と火山噴火の犠牲者を出さないっていうのが2本柱」で活動すると言います。生還者だからこそ伝えられることがあると考えています。

経験と教訓を、未来へ。里見さんは御嶽山と向き合い続けます。

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