今週のシリーズ「ふれる手仕事の秋」。きょう紹介するのは、羊の毛を特殊な針でつつくことで繊維を絡めて形を作る羊毛フェルトです。
釜石市の女性作家は、この羊毛フェルトでペットを失った飼い主に寄り添っています。

丸くなってすやすやと眠るネコー。
こちらは羊の毛でつくられた羊毛フェルトの作品の一つです。
手がけたのは釜石市の女性作家「かぎしっぽ」さんです。
主にイヌやネコの作品を作っています。
羊毛フェルトとは、特殊な針を使って羊の毛をつつきながら、絡み合わせたり重ね合わせたりしてさまざまな形を作るハンドクラフトです。

かぎしっぽさんは自身の作品づくりと平行して、死んだペットの姿を羊毛フェルトで再現してほしいという飼い主からの依頼にも応えています。

(かぎしっぽさん)
「どべっとなったとこが可愛いかったんですよ、とか、ごはん食べた後、鼻にごはんがついてんですよとか。そういうの聞くと、そのままそれにしたくなる。受け取ったときに笑っててもらえればいいなと思って」

作品づくりでは、飼い主から聞いた話をもとに「きっとこんな子だったに違いない」と想像しながら形にしていきます。


実際に生きていたペットを再現する上で難しいのは毛の色の調合です。
複数の色の羊毛を組み合わせてイヌやネコの毛の複雑な色合いを作り出します。
羊毛フェルトでペットを失った飼い主に寄り添うかぎしっぽさん。
取り組みの背景には自身の辛い経験がありました。

(かぎしっぽさん)
「自分の震災で亡くなった子は作れていないので。写真は無いし。まだやっぱり可哀そうだなという思いがいっぱいあるから」

2011年3月の東日本大震災の津波でかぎしっぽさんは、当時飼っていた10匹のネコを失いました。
そんなかぎしっぽさんの羊毛フェルトとの出会いは、被災者を支援するNPOで仕事を始めたことがきっかけでした。
職場の仲間に羊毛フェルトを教えてもらうと、その楽しさにすぐに夢中になりました。

(かぎしっぽさん)
「面白そうと思って、もともと作るのは好きだったので針を刺しているときの音が好きでサクサクサクわーたまんねーと思って 笑」

震災から13年半ー。
かぎしっぽさんは復興住宅で夫とネコ2匹と暮らしています。


盛岡の保護猫の施設から引き取ったはちわれの雫と黒ネコのコージ君の2匹は仮設住宅で暮らしていた頃らの家族です。

(かぎしっぽさん)
「震災前も猫がいて、当たり前に猫がいて、悪さしたらこらーって怒って、ごはんになったらはいはいはいってやって、猫が猫じゃらしで遊んでる音を聞くだけで嬉しかったね」

作品をつくり続けて13年余り。


今では県内で開かれるクラフト市などにも羊毛フェルトを出品しています。


今、目指しているのは釜石の方言で「おだってる」と表現する、すこしふざけた思わず笑ってしまうような心あたたまる作品作りだと言います。

(かぎしっぽさん)
「ふざげぢぇあ、おだってらぜーこのばばあってわっはっはは。それがいちばん嬉しいかも。そしてその仲間が集まってこないかなーって思って」

自身がペットを失った経験からペットを失った飼い主たちの悲しみに向き合うかぎしっぽさん。きょうも針を刺す手に心をこめます。

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