無責任な飲酒運転が、またも人命を奪った。犠牲となったのは、全盲で白杖をついて歩く息子に付き添っていた母親だった。去年の年末に大阪府岸和田市で起きた、凄惨な飲酒運転死傷事件の裁判。被告の男が、“新しく買った車を見せたい”という理由で忘年会に車で向かい、4軒の飲食店で浴びるように飲酒していた事実が明らかになった。「幸せな家族の日常がめちゃくちゃにされた」遺族の痛切な陳述も法廷に響いた。

白杖をついて歩いていた息子と母親に対向車線から突っ込み…

事件現場(大阪・岸和田市)

去年12月30日の早朝、大久保春江さん(当時82)とその息子(51)は、大阪府岸和田市の道路の路側帯を歩いていた。息子は全盲で、白杖をついて歩き、春江さんが寄り添っていた。2人はJR阪和線に乗るために駅に向かうところだった。

そこに、岩井拓弥被告(31)が運転する乗用車が、対向車線から時速約56kmで突っ込んだ。2人ははねられ、春江さんは死亡。息子も外傷性くも膜下出血や肺挫傷などの重傷を負った。

捜査で岩井被告は飲酒運転をしていたことが判明。危険運転致死傷の罪で逮捕・起訴された。

9月18日、大阪地裁堺支部での初公判。罪状認否で岩井被告は、小さな声で「間違いありません」と起訴内容を認めた。

居酒屋・スナック2軒・ダーツバー…4軒で飲酒 1軒目でビールをジョッキ8杯

廷内スケッチ(岩井被告・9月18日)

検察官・弁護人の冒頭陳述や、証拠調べを総合すると、被告は事故前日の夜、自宅を出て車で知人らとの忘年会に向かった。1軒目に居酒屋、2軒目と3軒目にスナック、4軒目にダーツバーと、計4軒の飲食店で飲酒。1軒目ですでにジョッキで8杯ほどのビールを飲み、その後もビールや焼酎を飲んでいたという。

そして、車で帰宅する際に今回の凄惨な事故を起こした。呼気検査によれば、事故時に被告は呼気1ℓ中0.69~0.85mgのアルコールを体に保有していたと考えられるという。酒気帯び運転の基準は0.15mg/ℓであり、実にその4倍以上ということになる。

運転中に停車し居眠りか…その後センターライン何度もはみだし事故に

岩井被告(今年1月)

法廷では被告の車に付けられていたドライブレコーダー映像も公開された。

被告は自宅から約4.3km離れた駐車場を出発。かなり大きな音量で音楽を流し、被告も口ずさんでいる。しばらくすると、車線はみだしのアラート音が鳴るようになる。

そして途中で道路脇に停車。傍聴席からは聞き取りづらかったが、検察官によれば寝息が確認できるという。少しの間、被告は眠っていたとみられる。

そして再び発進するも、ここからは明らかにセンターラインをはみ出した場面が何度もあった。そして最後に、被害者2人に車は突っ込んでいく…。あれほどのスピードで車が向かってきた中、被害者がよけることなど到底不可能だったと実感する。

「車を買ったばかりで正直見せたいという気持ちがあった」運転代行呼ぶつもりだったと釈明

廷内スケッチ(岩井被告・9月18日)

そもそもなぜ、飲酒することが自明な状況にありながら、被告は車で忘年会に向かったのか?

(9月18日の被告人質問)
弁護人「なぜ車で行ったんですか?」
被告 「家の掃除とか洗濯、家事が(出発ギリギリまで)あったというのと、車を買ったばかりで、正直見せたいという気持ちがあった」

そして被告は、帰宅時には運転代行業者のドライバーを呼ぶつもりだったと説明した。

弁護人「家を出る時は、代行を呼ぶつもりだったという理解で間違いないですか?」
被告 「はい」

検察官「素面(しらふ)の時に代行を呼ぶつもりだったとしても、お酒を飲んだら気が大きくなりますよね?どうして代行を呼ぶと、自信が持てたんですか?」
被告 「普段からずっと、当たり前のように呼んでいたので」

しかし、被告は運転代行業者の電話番号を、携帯電話に登録していなかったという…。

裁判官「なぜ携帯電話に登録しないんですか?」
被告 「常に名刺を持ち歩いていたので、登録する必要性を感じませんでした」
裁判官「結局代行を呼ばなかった理由は、今も思い出せないんですか?」
被告 「はい」

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