山口県下松市笠戸島にある栽培漁業センター。市の特産「笠戸ひらめ」の養殖や、魚を卵から育てる種苗生産などを行っています。
この春、センターに3人の新入職員が仲間入りしました。高校や大学を卒業したばかりの若者が入るのは、なんと、およそ40年ぶり。
「これからの漁業を支えたい」。漁業の未来を見据える若者の思いを取材しました。
下松市栽培漁業センター・小酒井優弥さん
「自分がやりたいことなら、別に自分が苦しくても、自分の夢がかなうなら、それに進んでいきたいタイプなんで」
漁業への思い胸に山口県へ
静岡県出身の小酒井優弥さん、19歳。この春から親元を離れ、栽培漁業センターで働いています。縁もゆかりもない山口県で働くことを選んだのには、漁業への熱い思いがありました。
下松市・笠戸島。鮮やかな赤色が特徴的な笠戸大橋を渡ってすぐの海沿いにあるのが、「下松市栽培漁業センター」です。水産資源の維持拡大を目指し、魚を卵からある程度の大きさまで育てる種苗生産・中間育成や、市の特産「笠戸ひらめ」、「笠戸とらふぐ」の養殖に1983年から取り組んでいます。
41年ぶりの高卒新卒採用
この春、3人の若者が仲間入りしました。周南市出身の中川大地さんと、神奈川県出身の岡本考弘さん、そして、静岡県出身の小酒井優弥さん。休み時間は、センターの「ねこ職員」と遊びます。
小酒井さんと中川さんは高校を卒業したばかり。岡本さんは大学を卒業したばかりです。実は、センターに高校を卒業したばかりの新卒者が入るのは、創設以来41年ぶり。念願の新入職員です。
中学時代の体験から漁業の道に
養殖部門を担当している中川さん。中学生の時に職場体験でセンターを訪れ、「ここで働きたい!」と漁業の道を志しました。
下松市栽培漁業センター・中川大地さん
「やっぱり1番は、下松市内、山口県内越えて全国にここのヒラメを広めたいんですけど、そのために自分らが積極的にいろいろ改善していって、みなさんに食べてもらえるようにしたいですね」
今では、過去の自分のような子どもたちに、ヒラメについて説明する役も担っています。
種苗生産は少数精鋭で
小酒井さんと岡本さんは、魚を卵から育てる種苗生産を担当しています。
下松市栽培漁業センター・岡本考弘さん
「種苗生産は中間育成にもつながる最初の最初なので、結構やりがいはありますし、やっぱ自分の手で育ててきたのが、だんだん大きくなるのが目に見えて分かるので、それは結構楽しく続けられるのかなと思いますね」
魚はたくさんの卵を産みますが、自然の海ではエサ不足や敵に襲われるなどして多くが死んでしまい、大きくなれるのはごく一部です。
そこで下松市栽培漁業センターでは、人間の手で卵から稚魚まで育てる種苗生産を行っています。大切に育てられた種苗つまり稚魚は、自分でエサをとったり、外敵から身を守ったりできるよう、ある程度の大きさまで育てられ、海に放流されます。
センターの職員は10人。そのうち、種苗生産を担当しているのは、新入職員の2人を含めた3人です。この春入ったばかりの小酒井さんも、シルバー人材センターの人手を借りながら、1トン以上あるという培養水を入れ替え、卵のエサとなるワムシを育てる作業を行います。一見地味でも、かなり体力を使う仕事。毎朝、2時間ほどかけて行っているそうです。
小酒井さん
「自分の1つのミスとかで稚魚が多く死んでしまったりとか、大事なことにつながってしまうので、地味な作業ですけど、そこは自分ができる最大の役目なので」
「ヒラメ養殖を仕事にしたい」
幼いときから魚が好きだったという小酒井さん。水産高校に入学して種苗生産や養殖に興味を持ちました。学校でヒラメを育てた経験から、「ヒラメの養殖を仕事にしたい」と、夢を追って、ひとり、山口県にやってきました。今は、もともとやりたかったヒラメの養殖ではなく、種苗生産の担当ですが、学ぶことは多いといいます。
小酒井さん
「本当に毎日やりがいを感じて、やっぱ自分の夢を実現できて今やってるっていうのは、自分に誇りを持って仕事とか作業が出来てるなと思っています」
進む高齢化、若手へ技術継承を
下松市栽培漁業センターの高卒の新入職員は小酒井さんらが41年ぶり。少数精鋭で多くの魚を育てなくてはいけないことから、これまでは、どうしても即戦力となる経験者を雇うことが多かったといいます。
しかし職員も高齢となり、「技術を若い世代に継承しなくては」と、久しぶりに新卒者の採用に踏み切りました。漁業のこれからを担ってくれるであろう若い世代の活躍に、先輩も期待を寄せます。
下松市栽培漁業センター・倉本悟課長補佐
「僕たちももう定年組になりますんで、今年しっかり技術を伝承して、これから頑張ってほしいです。もちろん今までやってきた技術もあるんですが、それに伴って自分たちも新たにこういうこと取り組んでみようと、やっぱり目標があってやってもらったらいいですね」
担い手の高齢化は、センターだけでなく、漁業全体の問題でもあります。県内の漁業就業者の数は、2008年には6700人あまりいましたが、去年は2825人と、半分以下にまで減っています。そのうち10代、20代の割合はわずか3パーセントにとどまっています。さらに、近年は「子どもの魚離れ」も叫ばれています。
小酒井さん
「自分は全然一人前じゃないですし、まだまだ自分が担っていくレベルではないので、まだ。頑張ってこれからレベルを上げていって、種苗生産とかを若者が担っていく、自分がパーツとなっていけるように今頑張ってますね」
漁業が厳しい状況に立たされる中、大好きな海の生き物たちを守るために。そして、これからの漁業を支えていくために。先人たちから次の世代へ、技術だけでなく、思いも引き継がれていきます。
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