(本記事は、沖縄県立コザ高校・空手部主将Aさんの自死問題を長期取材したドキュメンタリー番組「我が子を亡くすということ」を再構成したシリーズの第4回です。第1回記事からの全編はこちら)

何が「Aさん」を自死に向かわせたのか


「生徒A」となったみかさんの息子が亡くなって3年が過ぎ、今年「はたち」を祝うはずだった息子の仏壇にはお酒が並んでいた。息子の友人たちが持ってきてくれたものだった。

▽生徒Aさんの母・みかさん
「近所に住んでいる中学校で一緒だった子たちが、成人式の時に”一緒に行こう“と迎えに来て」
「式が終わって来るときも当初は2、3人で来ると言っていたんですけど、結局ぞろぞろと12人ぐらい来て。嬉しかったですね本当に。こうやって思ってくれているんだと」

成人式の日に「Aさん」の同級生たちは“迎え”に来てくれた

友人たちの心に今も生きる息子の姿を感じた、2024年の成人の日。その2か月後。

第三者 “再調査” 委員会による調査報告書が県に提出された。そこに結論づけられた、Aさんの自殺の要因は…

ー調査報告書からー
「前日にあった、顧問からの理不尽かつ強烈な叱責が生徒Aを自死に至らしめた、直接のきっかけになった、大きな要因である」

▽第三者委員会委員長・古堅豊 弁護士
「顧問と部員という主従関係を超えて“支配的要素”。そういう関係が出来上がっていたなかで、(自死の前日の)1月28日の言動が彼にとって、自死に向かう大きな原因になったんだと考えています」

第三者再調査委は、顧問の言動とAさん自死に直接の因果関係を認めた

3年前、最初の調査委員会が委員4人だったのに対し、弁護士や学識経験者、臨床心理士など8人の委員と4人の調査員、計12人で構成された再調査委員会は、コザ高校の教職員や空手部の生徒、空手関係者など74人に聴き取りを行ったほか、Aさんのスマートフォンの解析も行った。

特に元顧問とのLINEのやりとりは、重要な資料となった。

ー元顧問とAさんが交わしたLINEー

元顧問 「今からはAと相談して男子は(稽古を)やってください。ずっと夏休みやってていいですから。それでいいですね」

Aさん 「自分たちの考えが甘かったです。すみませんでした」

部員たちを突き放すようなメッセージは、夜の10時50分に送られていた。


顧問からAさんへのLINE電話の回数等は63回、キャプテンに就任以降は50回もあり、Aさんは、顧問からの連絡に備えて自宅でも常にイヤフォンを装着。スマートフォンが手放せない状態だった。

▽第三者委員会委員長・古堅豊 弁護士
「その他にも大会のたびに、成績が振るわない場合は「キャプテンを辞めろ」であるとか。一定の良い成績を収めた場合でも褒められることなく、逆に「まぐれ」だとか言われたり、とにかく彼をほめることはせず“キャプテンを辞めろ”という言葉が日常的に、頻繁に投げつけられていた」

そして死の前日。

道場に行こうとしたAさんに激昂した顧問

顧問の勧めで部活後に通っていた道場に行こうとすると、咎められたAさん。

残って部活をすると伝えても、「キモい」「ウザい」といった暴言を受けた。

顧問はAさんに荒い言葉を投げつけた(再調査報告書より)


Aさんは顧問の指示にいくら従っても認められることはなく、矛盾した要求やメッセージを日ごろから受けていた。

相手がどうすることもできなくなる、この相反する指示は「二重拘束=ダブルバインド」と呼ばれる。

Aさんはどちらの選択肢を選んでも罪悪感や不安を覚え、否定的な感情が生じた可能性があると、報告書は指摘している。

▽第三者委員会委員長・古堅豊 弁護士
「自死の原因となったパワハラ的な教員による不適切な指導が、なかなか改善されない、後を絶たない。これは一体なぜなのだろうか」

「教育に携わる多くの方々の中で、子どもの権利に関する意識、人権意識がまだ醸成されていないのではないか」


過去にもあった不適切指導 学校の管理職は生徒に聴き取りせず

コザ高校の対応にも問題があったと指摘された。

Aさんが亡くなる以前にも、顧問は、宿泊先の女子部員の部屋を訪れ、“ベッドに寝転んで話す”、“女子部員の鼻の穴に指を入れる”など、いくつかの不適切な指導が学校に報告されていたのだ。

▽上間陽子 琉大教育学研究科教授(再調査委・副委員長)
「この(自死)事案が起こる前年度に、生徒に対する不適切な指導という問題がある。管理職がそれを掴んでいます。掴んでいるにも関わらず、当該の被害を受けた生徒たちへの聴き取りはなされていないんですね」

「生徒たちにとってみれば、どうしてそういう風になったのかとか、どう思っているのか、聞かれていくような学校文化があって、それが当たり前になっていたら、こういうことはなかったと思います」

上間陽子 琉大教育学研究科教授(再調査委・副委員長)

▽第三者委員 安里学 弁護士
「彼はすごく空手を愛していて、空手を上手になりたいと思っていた。良い成績をあげて全国大会も控えていた」
「続けたかっただろうな、守れなかった大人の責任は重いなと…」

2年以上をかけて行われた調査の報告書は、資料を加えると200ページを超え、全国で起こる同様の事案と比べても突出した分量となった。

詳細に行われた調査 報告書は200ページを超えた

調査報告書の最後の章「むすびにかえて」には、委員全員の思いが込められた。Aさんの人柄がこう記されている。

「将来の夢は教師になること」


「大会で優勝したあとの教室で “チャンピオン!” と呼びかけると、にっこり笑ったこと、他の道場で稽古をするときにはその道場の人に失礼になると言って、黒帯を締めることはなかったこと」

思いやりがあったAさん


「高校を卒業した後、将来は教師になりたいと思っていたこと」

「あのとき彼のそばにいた部員たち、そして生徒たちは、今なお彼を亡くした傷みを抱えている」

「彼が “生徒A” になってしまうことによって告発した状況を変えるべく働くのは大人たちの責務である」

Aさんには教師になる夢があった



▽生徒Aさんの母・みかさん
「ありがたかった。分かってもらえたというだけで、ありがたいですし、ここまで真剣に調査していただいたので、今後はこれを一区切りとして、やっぱり(再発防止に)つなげていってほしい、強く思いました」

▽父・さとしさん
「子どもが、一生懸命頑張っていたというのもちゃんと記録に残っていた。良かったって言っていいんですかね…」

生徒Aさんの両親は詳細な再調査を再発防止につなげてほしいと強く願う

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