去年、震災後初めて地元で披露された福島県浪江町南津島地区の田植踊り。これまで、地元の保存会の活動に大学生が加わって、伝統をつないできましたが、この夏、保存会から学生たちにある贈り物が手渡されました。
浪江町津島地区。大部分はいまも、帰還困難区域のままです。その津島地区で、避難指示が解除された復興拠点にある役場の支所に、8月31日、仙台市の東北学院大学の学生と、南津島郷土芸術保存会の関係者が集まりました。
夏休みを利用して学生たちが合宿を張り、保存会とともに田植踊りの練習するためです。
南津島の田植踊りは去年、震災後初めて、地元・津島で披露されました。この節目の踊りを保存会のメンバーとともに、やり遂げた学生たち。
田植踊りは、原発事故の後、深刻な担い手不足となり、危機的な状況にありましたが、保存会と学生たちが二人三脚で練習を重ね、伝統をつないできました。
4年生の今野実永さん。南津島出身で、ふるさとの田植踊りを将来につなぐため、このプロジェクトを立ち上げました。
部屋の床一面に並んだ、黒の留袖。県内のNPO「民俗芸能を継承するふくしまの会」が集めたもので、学生と保存会に寄付されました。
また、この日は、保存会からも学生たちに贈り物がありました。普段は仙台で学んでいる学生たち。日常的に本番さながらの練習ができるようにと、獅子舞の頭や神様を入れる社壇が、贈られました。
「野球少年がグローブと寝るように…」
式のおよそ2か月前。二本松市に南津島のメンバーたちが集まりました。
田植踊りとともに演じられる神楽で使う獅子舞の頭が完成し、最後の仕上げが行われていました。獅子頭は神楽を演じる一人、三瓶友一さんが一から手作りしたものです。
獅子頭の制作を自ら買って出たという三瓶さん。踊りが洗練されてきた学生たちに、さらに芸を磨いてほしいと思っています。
三瓶友一さん「野球少年がグローブとボールを手に持って寝たりするっていうのと同じようにいつでも触れるときに学校に行けばあるなっていうことになれば一番いいですもんね」
工房を開き、制作に励む三瓶さんですが、元々、専門知識があったわけではありません。本業は理容師で、原発事故の後、古くなったひょっとこの面を作り直すため、カルチャーセンターに通い、技術を身につけました。
獅子頭を作るのは初めてのことで、何度も失敗をしながら、ようやく仕上げました。
三瓶友一さん「1年半…1年半ぐらいかかってるんでしょうね。仕上がるまでだから」
学生たちとともに再びつながりだした田植踊り。保存会の集まりは、バラバラになった住民が集う、貴重な機会でもあります。
三瓶友一さん「運動会ができないわけですし、球技大会もできないわけですよ。一番慣れ親しんだところで、自分ができるものがそれぐらいだったから、やりましょうっていう思いで。あれがないとやっぱり寂しかったんじゃないですかね。繋がりがなかったかもしれないですね。田植踊りは…やってよかったですね」
また、社壇は使われなくなった古いものを保存会のメンバーで大工の紺野肇さんが修復しました。
紺野肇さん「悪いところもあるのかもしれないけど実際これを使ってきたんだから、使ってほしいということで後々も長く継承してもらえれば、もう最高です」
東北学院大文学部・金子祥之准教授「出演するにあたって必要な道具のかなりの部分がそろったので、身の引き締まる思いですね。うれしいという気持ちと、その気持ちに応えたいなという気持ちとその両方が混在している気持ちです」
教える方も、教わる方も…
道具に込められた、それぞれの思い。それを受け取った、学生たちは贈呈式の後、さっそく練習に臨みました。
教える方も、教わる方も、回を重ねるごとに、真剣さは増しています。いまでは、民俗芸能を担う、同じ仲間として活動しているように見えます。
南津島郷土芸術保存会・三瓶専次郎会長「やっぱり、完全に覚えてもらって、できるだけ継承していってもらいたい。それが我々の望み。中途半端に覚えるんじゃなくて、完全に踊りをマスターして新しい生徒にどんどん継承してもらえればありがたい。そういう願いを込めて、我々も動けなくなるのが目に見えている人ばっかりだから」
記者「最初に練習したときにここまでくると思っていました?」
三瓶会長「思っていませんでした。不安ばかりだった。当時はね。どこまでいけるのかなって。ここまで応援してくれる生徒が30人近く来るっていうことが、やってよかったかなって。これから先も継続できるかなっていう望みをもっています」
南津島の田植踊りは今年、10月12日に郡山市で行われる「ふるさとの祭り」のほか、13日には津島でも公演を予定しているということです。
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