日本では今、子どもの10人に1人が体外授精で生まれています。そんな不妊治療の中で注目されているのが「卵子提供」です。国内で治療を受けるのは難しく、海外に渡る日本人が増加しています。卵子提供の実情を取材しました。

「卵子提供」説明会 登壇したのは台湾の医師

2024年7月、東京で開かれた説明会。会場には不妊に悩む夫婦など約40人が参加していた。登壇しているのは台湾の不妊治療クリニックの院長だ。

宏孕ARTクリニック 張宏吉 院長
「50歳以上でも妊娠できますか?とよく聞かれます。成功例は57歳の方までいるので 子宮があれば妊娠できます」

説明会のテーマは、第三者の卵子を使って体外受精を行う「卵子提供」。13年間で実に736人の日本人が台湾に渡り、卵子提供で出産しているという。

参加者(53歳)
「結婚したのも50歳だったんですけれど、不妊治療を始めたのが52歳から。今回の採卵周期で自分の卵子がダメだったら、台湾でのドナーさんを使ってというのを考えました」

参加者(46歳)
「日本では、あまりこういう卵子提供ないし、台湾に行って、すぐドナーもいますし選べて、すぐ移植できるっていうのはすごく助かりました」

同じ時期に台湾の別のクリニックが大阪で説明会を開いていた。

30代後半のAさん夫婦。20代から9年以上不妊治療を続けてきたが、妊娠には至らず病院からの勧めで初めて説明会に参加した。


「結婚したらすぐ子どもができるって思いながら過ごしていたが、治療がうまくいかなくて。卵子提供の話を聞いて、最初はやはり2人の遺伝子が入った子どもというのにこだわっていた。でもやはり僕たちの希望するところは、子どもがほしい」


「なかなか結果がでなかったので、卵子提供っていう話が出て、海外の治療になるということで不安もあったけど、まだ自分で妊娠して出産できるという希望が持てたから、卵子提供受けようっていう気持ちは固まりました」

Aさん夫婦は卵子提供を受けるため、台湾に行くという。

なぜ、多くの日本人が台湾に渡ってまで治療を受けるのだろうか。実は日本で「卵子提供」が進まない理由があった。

「今回もダメだったと自分を否定」体外授精10回以上の末に『卵子提供』を選択

大阪府に住む香澄さん(仮名)。36歳から3年間不妊治療を続け長男を授かった。だが、その後、第二子のため体外受精を10回以上続けたが、妊娠できなかった。

香澄さんは時間の経過とともに、精神的に追い詰められていった。

香澄さん(仮名)
「妊娠判定の陰性が何回も続くと、やっぱり病んでくるというか、生理がきたタイミングで自分の出血を見て、今回もダメだったんだっていう、自分を否定してしまうタイミングが一番悲しかった。なんか打たれているのにそこからゾンビのように立ち上がっていくみたいな…」

子宮の検査や子宮を活性化させる治療、漢方、鍼灸など何でも試した。気付けば家を買うための貯金など1000万円以上をつぎ込んでいた。

香澄さん(仮名)
「(不妊治療の領収書が)札束みたい…。1回の支払が27万とか、次の支払が30万、次が38万。採卵すると100万ぐらいが飛んでいきますね。またダメだったのか、また次みたいな、ギャンブル依存症みたいな感じでしたね」

妊娠しないのは何故か…海外の検査機関で受精卵を調べてもらうと、全ての受精卵に染色体異常が見つかった。自分の卵子での妊娠を諦めた結果、行きついた選択が「卵子提供」だった。

香澄さん(仮名)
「私としては卵は子どもの原型というか、会いたかったし育てたかったんですけども、この検査結果は衝撃というか…。自分の卵では無理なんだなというのを痛感させられました。『卵子提供』の可能性があるなら、そこにかけたいと思いましたね」

香澄さんは仲介業者を通して20代の日本人ドナーの卵子を提供してもらい、45歳でついに次男を授かった。かかった費用は500万円だった。

香澄さん(仮名)
「不妊治療の期間が苦しかったので、それに勝るものはないというか、本当に生まれてきてくれて、ただただ嬉しかったです」

負担・リスクも…ドナー登録後、ほとんどの人が辞退 「卵子提供」国内で進まない理由

だが、実は今、国内で卵子提供を受けるのは容易ではない。

兵庫県のNPO法人「OD-NET」、卵子提供のドナーとして登録する人はいるが、そのほとんどが、身体への負担などを理由にドナーをやめるという。

NPO法人「OD-NET」 岸本佐智子 代表
「途中で仕事忙しいからやっぱりやめます、リスクあるんだったらやめますとか。転勤や結婚したらやめます、私がお腹大きくなったからやめますとか、途中で結構やめられるんですよ。実際応募いただいた中で5%ぐらいの方に協力いただいている」

11年間で16人が出産し、5人が妊娠中だが、ドナー不足のため新たに卵子を望む人の依頼は受け付けていない。

かなさん(仮名)は2023年12月、このNPO法人「OD-NET」に卵子を提供するドナーとなった。

卵子ドナー かなさん(仮名)
「診察に伺います。2週間の間に5~6回ですね。(Q.その間の仕事はどうする?)仕事は休みを取っていたり、シフトを調整したりする」

かなさんはこの日、次の採術に向け、卵子の大きさなどを確認しにきていた。

看護師
「卵胞の方が、右が0.9cmまでが6個、左が1cmまでが6個。いま体調とかでお腹が苦しくなったりとかないですか?」

かなさん(仮名)
「特に問題ないです」

ドナーは採卵までの2週間、卵子を多く育てるために自分で注射を打たなければならない。

かなさん(仮名)
「(Q.これは毎日?)毎日、決まった時間に。採卵手術の2日前ぐらいまでは打ち続けます」

採卵の際の出血や、お腹に水がたまるなど副作用のリスクもある。

それでも、卵子提供を決めたのは親しい知人が妊娠のリスクに直面し、自分に何ができるのかを考えたからだという。

かなさん(仮名)
「出産が望めないかもしれないということで、そういう気持ちはあっても出産が難しい方は一定数いるんだなということがあったので、今、子どもが欲しいけど、どうしても叶わない方に対して、健康な私が何かできることで考えたのが卵子提供という形でした」

日本向け「卵子提供」 海外の業者は複数存在 規制や罰則は?

NPO法人が、ドナーのなり手を確保するのに苦労する一方で、ネットで「卵子提供」と検索すると、日本人向けに卵子を提供している海外の仲介業者のサイトが複数確認できる。

なぜ、これらの業者はドナーを集められるのだろうか?アメリカの仲介業者は…

日本人向けに「卵子提供」を行うアメリカの仲介業者
「(ドナーへの)謝礼金として1万ドル、日本円にすると150万円ぐらい。基本は若くて健康な女性。身長は平均以上あればOKという方が多い。だいたい日本人の方は日本人のドナーを希望する方が多いですね」

さらに、別の中国の業者は120万~300万円の報酬をドナーに支払うという。

取材メモ
「お客さんの大部分は中国の富裕層。ドナーは台湾や日本の方が結構人気がある」
「写真はお客さんに見せないとマッチングできない」
「学歴とか身長、どれくらい卵子がとれるかをお客さんは重視」

顧客は外見や学歴、人種などを精査しドナーを選択するという。

日本のドナーに高額報酬が支払われ、ドナーの学歴などを条件とした取り引きが許されるのは、日本には卵子を提供する際のあっせんに関する規制や罰則がないためだ。

超党派の国会議員連盟が議論を進めているが、法案提出には至っていない。さらに、日本産科婦人科学会も卵子提供などの生殖補助医療に慎重な立場を取っている。

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