今月9日、長崎地裁で言い渡された被爆体験者訴訟の判決では、原爆後に被爆地域の外で降った「雨」による被ばくの可能性を認めた一方、「灰」による被ばくの可能性は認めませんでした。予想もしていなかった「雨と灰」という新たな線引きについて、専門家からは疑問の声が上がっています。

原告44人の中で判断が分かれた長崎地裁判決。

松永晋介裁判長は、1999年に長崎市などが行った証言調査で降雨体験の記述が多かったことなどをもとに、被爆地域の東、当時の風下にあたる旧矢上村・旧古賀村・旧戸石村で放射性微粒子を含む「黒い雨」が降ったと認定。ここにいた15人を被爆者と認める判決を言い渡しました。

一方で多くの原告が降ってきたと訴えた「灰」については「放射性物質であったとまでは認められない」とし、「雨」を浴びたか「灰」を浴びたかで被爆者を線引きました。

被爆体験者訴訟原告弁護団・三宅敬英弁護士:
「『黒い雨』が降ってるということは放射性降下物がある(証拠だと)言っているのに、長崎地裁は『黒い雨が降ってる所だけです』と判断した。なんで雨で区切るんだ?」

被爆体験者訴訟原告弁護団・中鋪美香弁護士:
「『黒い雨』が降った地域か、そうでないか、という所にしか行政は目を向けなくなってしまう。それが一番恐ろしい。そうじゃない本来は。『黒い雨が降った』というのは放射性降下物が降下したひとつの形態でしかない。そこが分かってない」

79年前、核爆発によって長崎市の上空に出現した巨大な火の球。熱によって膨張して上昇、同時に強い上昇気流が発生し、地表の土や瓦礫は火球内に取り込まれて混ざり合い、巨大な原子雲が作られました。

この雲から広がった「放射性微粒子」を含んでいるかどうかについて、周囲に降り注いだ「雨」と「灰」で違いが出るのか?専門家は「考えられない」としています。

長崎総合科学大学・大矢正人名誉教授(専門:物理学):
「灰と雨で分けるのは論外。地表の土埃や破片などにより『黒いスティム(雲の柱)』が作られて火球内に取り込まれ、放射性物質と混ざり合っている状態で放射性降下物の粒子が大量に作られる」
「この粒子の降下が『雨』という形態だけによるというのは当然考えられない」

長崎大学・高辻先生名誉教授(専門:放射線生物物理学):
「雨が降らなくても放射能(放射性微粒子)が落ちてくることは当たり前すぎるくらいに思ってるんで。なぜそこで『黒い雨』ということに限定するのかは専門家の私でも分からない」

国が否定してきた被爆地域外の長崎の「黒い雨」を認めた一方、放射性微粒子による被ばくを「雨」だけに限定した今回の判決。

示された「雨と灰」の線引きが、今後どのような影響を及ぼすのかは不透明です。厚労省は岸田総理が8月9日に指示した被爆体験者問題の「合理的解決」に向けて、具体策の検討を進めています。

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