今後の捜査についてポイントを整理します。

業務上過失致死罪の「過失」の要件は4つあります。

1.予見可能性、2.予見義務、3.結果回避可能性、4.結果回避義務、これら4つの要件を全て満たしていなくてはなりません。

 今回、特に捜査を難しくしたのは、沈没した瞬間を目撃した人が誰もいないという点です。

船長が死亡している中で運行管理者である、社長の桂田容疑者が、事故が起きることを事前に予見できたかという「予見可能性」と、事故という結果を避けることができたかという「結果回避可能性」を立証できるかがカギとなります。

 今回、海上保安庁は、桂田容疑者は安全確保のための「発航禁止」義務と「航行継続中止」義務を怠ったと判断。

つまり、「予見可能性」と「結果回避可能性」があったとして、逮捕に踏み切りました。

 今後はこれらの要素を立証するために、起訴に向けた詰めの捜査が行われます。

ここで、海難事故に詳しい日本水難救済会の理事長で、元・第3管区海上保安本部長の遠山純司さんと中継が繋がっています。

 ― 遠山さん、事故の発生から約2年5か月というこのタイミングで逮捕に至った理由については、どのように見ていますか。

日本水難救済会 遠山純司理事長
「もともとこの事故については目撃者が誰もいないということ、物的証拠も極めて限られているということから、沈没したメカニズムを科学的に立証することに、非常に時間がかかったということだと思います。それから運輸安全委員会が調査結果を先に出しているため、海上保安庁独自の捜査の結果が運輸安全委員会の結果とどう違っているのか、違っていればその理由について公判廷でも耐えうるように、しっかりとした科学的な証拠固めをするのに時間がかかったのではないかと考えています」

 

 ― 今回、海上保安庁は書類送検ではなく、身柄を拘束する「逮捕」に踏み切りました。この判断についてはどのようにお考えですか。

日本水難救済会 遠山純司理事長
「海上保安庁は、逮捕の要件たる『逃亡のおそれ』『証拠隠滅のおそれ』の可能性があると記者会見で言ったようですが、それに尽きると思います。桂田容疑者は、これまで一貫して事故の過失責任を否定していたわけで、そのことも背景にあるのではないかと思います」

 ― 海上保安庁は記者会見で「ハッチから海水が流れ込んだことが沈没原因」と説明していましたが、この部分に関する桂田容疑者の責任については明らかにしませんでした。遠山さんは、この点、どのようにみていますか。

日本水難救済会 遠山純司理事長
「最終的には追及しなければならないが、そのもととなる沈没の科学的なメカニズムをしっかりと固めなければ、桂田容疑者の責任を追及することは困難。公判廷で、例えば運輸安全委員会の調査との差異があれば、そこを突かれてしまう。多角的に突かれてもきちんと説明ができることを基本にして、桂田容疑者へのつき合わせも含めて、供述を取って、捜査を進めていくことを考えているのではないかと思います」

― 逮捕に至る2年5か月の間、海保としては、逮捕に至るだけの根拠が必要なので、例えば模型を使うだとか、どうしたら船が、あの環境であの気候で沈むのかというようなことをくり返しいろんなパターンで検証してきたと思っていいのでしょうか。

日本水難救済会 遠山純司理事長
「それは必ずやっていると思います。検証、鑑定…そういった『こう思う』ではなくて、『こうであった』というふうに、非常に断定に近いような形、“事実関係固め”というか、それをこれまで時間をかけてやってきたと思います。私の経験上、ここまで時間がかかった例というのはあまりない、記憶にありません。捜査機関としての威信をかけて、しっかりと詰めの捜査をやったのではないかと思います」

― この後、詰めの捜査と、裁判という流れになると思いますが、それがひっくり返されないように、科学的根拠を積み上げるのは、相当時間がかかるというのは想像できますか。

日本水難救済会 遠山純司理事長
「そこが崩れると、このまま公判というのが成り立たなくなりますので、時間をかけてしっかりやったということに尽きると思います」

― 今後は起訴に向けた詰めの捜査になりますが、捜査のポイントはどこにあると考えていますか。

日本水難救済会 遠山純司理事長
「運行管理者としての義務を果たしたのか。具体的には事故を予見してそれを回避する義務を果たしたのか、それから結果回避可能性を果たしたのかが、社長としての責任、運行管理者としての責任をしっかり果たしたかどうかがポイントになると思います」

―桂田容疑者が、事故後、会見で、条件付き運航にも言及していましたが、そもそも安全管理規程に「条件付き」ということがなかったのに、過去にも、何度も出航していたということも、逮捕のひとつの要因と言えますか。

日本水難救済会 遠山純司理事長
「『条件付き運航』という、運航の判断というのをきちんと突き崩す。それから、『検査する組織が検査を通したので、自分はいいと思った』という運行管理者としての義務があるにも関わらず、他人のせいにするという桂田容疑者の主張を、しっかりと突き崩す準備、そのための科学的な事実関係の確証に時間をかけてやる。今後、それが捜査のポイントになってくると思います」

 

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