富士山の開山期間が10日に終了した。近年、夜通し登る「弾丸登山」が問題化しているが、山梨県は今年、夕方以降の登山道の通行規制などを導入し、昨年から9割減らしたという。同じく登山道がある静岡県も規制強化の意向を表明。ただ、担当者は「内容は今後の課題」と煮え切らない。規制をかける難しさがあるのだろうか。(中川紘希)

◆「協調は重要」山梨知事は期待するが

 山梨県は7月1日の開山に合わせ、同県側の登山道「吉田ルート」の5合目に設置した入山規制ゲートの運用を開始。山小屋の宿泊予約者以外は午後4時~翌午前3時まで通れなくした。また登山者の上限を1日4000人とし、通行料2000円の支払いを課した。

6月19日、入山規制の予行演習で窓口にスマホをかざす山梨県の長崎幸太郎知事

 同県によると、今シーズンの弾丸登山が疑われる夜間登山者数は、昨年の1万4469人から708人に激減。登山者の救急搬送件数も昨年の46件から27件に減った。長崎幸太郎知事は9月11日の記者会見で「登山者管理で大変大きな成果を上げることができた」と話した。静岡県には「ハーモナイゼーション(協調)は重要だ」と述べ、同県の規制強化を期待した。

◆一本道でないのでゲートは難しそう

 3ルート(富士宮、須走、御殿場)がある静岡県は今シーズン、登山者に山小屋の宿泊の有無などを事前にネットで登録させ、現地でスタッフが確認する試みをした。ただ山小屋の予約がなくても登山自粛を求めるだけの「お願いベース」にとどまった。鈴木康友知事は10日の会見で「山梨県と足並みをそろえた規制と通行料の徴収を検討する」と表明した。

富士山頂を目指す登山者=静岡県側の富士宮口6合目

 同県は来年の開山時期までに、規制に関する条例の制定を目指す。ただ静岡県側では、登山道と国有地が重なっており、法律面での整理が必要。さらにルートが一本道ではないなど地形的な理由でゲート設置は難しいという。県担当者は「条例があれば法的根拠をもって登山の自粛は求められる。ただ規制の手法は、山梨と全く同じにすることはできない」と漏らした。

◆山小屋も立地により意見さまざま

 静岡県では、富士山関係者間での合意形成も課題になっているようだ。県関係者は「山小屋経営者の中で意見がさまざまある。山頂に近く人気が高い山小屋は、経営に余裕があり、規制に前向き。だが下の方の山小屋は、規制が経営圧迫につながることを懸念しているようだ」と明かした。

富士山の山頂

 同県側の山小屋の経営者(75)は「こちら特報部」の取材に、利用者減少への不安を認め「山小屋があるから、落石やけが人の対応ができている。山小屋が存続できなくなれば、富士山自体も存続できない」と訴える。「規制が必要というなら、3ルートの中で不公平感が出ないようなやり方をして」と求めた。

◆通行料2000円は適正?議論の余地

 成果を強調する山梨県にも課題は残されている。今の規制では、軽装登山は止められず、ゲートが閉まる直前に入山し、宿泊しない「駆け込み登山」の問題も新たに浮上した。さらに登山者の上限や通行料が適正かどうかは議論の余地がある。長崎知事は「今後詳細に分析し、必要な見直しをしていく」と述べた。  上智大大学院の柘植隆宏・地球環境学研究科教授(環境経済学)は「山梨県から静岡県に登山者が過度に流れることが今後起こり得る。統一したルールを設けることが望ましく、静岡県は山梨県の成果を関係者に示し合意形成に努めるべきだ」と指摘。両県には「入山規制に効果的な通行料の設定など、試行錯誤をしながらも、スピード感をもって最善策を見つけてほしい」と求めた。 

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