岸田政権が6日に開いた原子力関係閣僚会議。東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働に向け、避難道路などを国負担で拡充する方針を決めた。そこに異論を呈したのが、島根県の丸山達也知事だ。同じく原発を抱える県のトップが怒った理由とは。丸山知事の主張をどう評価すべきか。 (中川紘希)

◆「再稼働の重要性」を岸田首相は強調

柏崎刈羽原発(2021年3月撮影)

 原子力関係閣僚会議には、8月の段階で退陣を表明した岸田文雄首相のほか、林芳正官房長官や斎藤健経済産業相らが出席した。再稼働に向けて地元同意が焦点となる柏崎刈羽原発について、6方向で30キロ圏外へ避難するための道路整備の費用を確保することを決めた。県の負担を極力減らし、道路拡幅や橋の耐震化を進める方針という。  岸田首相は「東日本の電力供給構造の脆弱(ぜいじゃく)性、電気料金の東西格差などの観点から、再稼働の重要性は高まっている」と強調。関係閣僚に「避難路の整備など避難対策の実効性を高めて」と指示した。

◆島根県も避難経路拡充を訴えてきたが…

 国の方針を巡り、丸山知事は11日の定例会見で「住民の避難対策は柏崎刈羽だけに求められるものではない。なぜ新潟だけ特別に対応するのか」と口にした。  島根県は政府に対し、要支援者を含めた住民避難の円滑化のため道路整備の拡充を訴えてきた。県の担当者は「具体的に建設や拡幅をしてほしい道路を明示しているわけではないが、避難経路の充実の支援を求めている」と話した。他に地域振興の交付金の拡充、中国電力への事故発生時の汚染水対策の指導も求めた。  県都の松江市には中国電力島根原発がある。2号機は8月の再稼働が計画されたが、工事の長期化で12月に延期された。丸山知事は、島根原発は30キロ圏に人口約45万人が集中する特殊性があると指摘。「なぜ新潟の豪雪地帯という特殊性だけに対応するのか。説明がないのは問題だ」と語る。

◆避難路確保の問題は全国共通

 特別扱いに首をかしげるのは知事だけではない。  島根大の保母武彦名誉教授(地域経済学)は「原発は沿岸部や過疎地に建設される。道路は少なく、避難路の確保の問題は全国共通だ」と話す。  それなのに、政府が新潟に重きを置くのはなぜか。  新潟国際情報大の佐々木寛教授(政治学)は「政府にとって柏崎刈羽の再稼働は悲願だ。事故を起こした東電の原発で再稼働が認められれば、他の再稼働に向けても弾みが付くという期待もあるのでは」と話す。「東電も原発を再稼働すればもうけが増える。福島原発の処理費などを負う立場としては一日も早く動かし利益を出したいのだろう」

◆支援を充実しても懸念は多く

 新潟県内で支援を厚くしても懸念は残るという。  2021年に県が行った避難計画の検証では、原発30キロ圏の住民が一斉に避難すれば放射性物質の検査地点で大規模な渋滞が起き、圏外への避難完了までに130時間かかるとされた。  佐々木氏は「地震などで損傷する道路の位置や数によっては、避難時間がより長くなる。道路を拡充し、その時間を少し削ることができても、焼け石に水だ」と語る。それでも「支援」をうたう政府については「道路の建設費を地元に差し出すことでリスクをのんでほしいだけだ。本当に安心安全につながるかは考えないといけない」と訴えた。  他の地域でも住民避難は容易ではない。  前出の保母氏は、島根県の避難計画でも道路寸断や土砂崩れといった複合災害のリスクが十分に検討されていないと批判。風向きによっては放射性物質が同県の隠岐島を覆い、島民は逃げようがなくなることも例に挙げ、「どれだけお金をかけても、避難にまつわる全ての懸念を解消しきれないのが原発の問題。安全な再生エネルギーの活用へと転換すべきだ」と話した。 

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