自民党総裁選が告示されました。総裁選取材18回の政治ジャーナリスト・後藤謙次氏がわかりやすく読み解きます。小泉氏、石破氏、そして裏での麻生副総裁、菅前総理のすさまじいキングメーカー争い。そして、キーマン岸田総理の心境。群を抜く取材と経験をもとにした、裏話満載の後藤節を是非ご覧ください。(聞き手:TBSテレビ政治担当解説委員 石塚博久)

82年当時 立候補に必要な推薦人は50人、総裁選は「激しい権力闘争」

ーー長く取材してきて、思い出に残る総裁選はいつですか?

後藤謙次氏:
今回の総裁選挙で18回目の総裁選取材ですが、一番印象に残っているのは最初。1982年、昭和57年の鈴木善幸さんが退陣して、それで総裁選になるんですけれども。立候補者が中曽根康弘さん、河本敏夫さん、安倍晋太郎さん、中川一郎さん。それこそ本当に激しい総裁選でですね、我々記者たちも全国を一周するぐらい同行取材したと。ただ当時はですね、推薦人の数は50人だったんですね。だから、そこに到達するまでも大変な戦いがあってですね。当時、立候補できなかった竹下登さんは安倍晋太郎さんに対してですね、「偉大なる総裁候補」と。これは茶化してるんじゃなくて、まさにそういう状況だったわけですね。現に、この総裁選で最下位に終わった中川一郎さんは総裁選の2か月後に自ら命を絶ってしまう。それぐらい激しい権力闘争だったので。

候補者は9人 第1回目の投票でカギを握るのは地方党員票

ーー小泉さんの出馬会見の直後だったというタイミングではあるのですが、「誰が次の総理・総裁にふさわしいか?」という質問に有権者の支持率はJNN世論調査(9月7、8日)で小泉さんが1位、石破さんが2位、高市さんがちょっと離れて3位ということですね。このポスト岸田の世論調査の意味合いはどうご覧になりますか?

後藤謙次氏:
総裁選の選択肢は非常に広く見えますよね、9人も出たら。だが結果として、選択肢をほとんど奪ってしまった。つまり、この9人のうち20人ずつが推薦人として名を連ねているわけですから、20×9で180人がすでに固定化されている。そこに本人たちが加わりますから、189人の投票先がですね、裏切りがなければその通りに出ると。367人の国会議員票を持っている人たちの半数以上がすでに固定化されていると。となるとですね、結果として国会議員の浮動票というのがほとんど減ってしまって、第1回目の投票で大きな影響力を与えるのは地方党員票ですね。それで党員票を集めている人は誰ですかと言うと、石破さんと小泉進次郎さん。となるとですね、選択肢が広いように見えて、すでにこの2強対決で最後決選投票になった時にはどちらを選ぶんですか、というのがこの顔ぶれなんですね。だからそれぞれほとんど当選見込みはないと言うと失礼ですけども、その人たちが何を求めるかによってこの顔触れの見方も随分違ってくると思いますよね。

ーー もし小泉さん、石破さんで決選投票になった場合、他の候補者を支援している岸田総理や麻生副総裁は選択を迫られますが?

後藤謙次氏:
これまでの主義主張・原理原則をかなり外れて出る可能性もあるし、じゃあ団体行動でいくんですか?それとも個別的に自由投票でいくんですか?という点はですね、すごく厳しいと思いますし。とりわけ麻生さんですよね。一貫して安倍政権以来、政権の主軸にいたという人が自分たちの向こうのゾーンの人たちを選ばなきゃいけない。しかも小泉、石破という選択肢になるとですねどちらとも距離があると。麻生さん自身はですね、極めて親しい記者には「海外に行きたい」ぐらいのこと言っているようですから、相当苦しくて。ただ政治ですから、最後はどちらかに決断しなければいけない。

2週間という長い選挙期間 経験よりも体力・知力勝負      

後藤謙次氏:
これから2週間ぐらい選挙期間ありますからね。徐々に見ていくとですね、途中から集中できなくなってくる候補は必ずでてくるんですね。もう負け戦が見えてるのになんでこんな全国を歩かされなきゃいけないんだという感じもあるし。小泉さん、石破さんも含めてですね、トップグループは狙われるわけですよね。プロレスでバトルロイヤルというのがありますよね。つまり潰し合いというのが、これからはじまるわけですね。多分、小泉進次郎氏には質問も、キャスターも含めてですね、追求は一番厳しくなると思いますね。そうすると体力も弱ってくるし、政策面でも追い詰められる可能性もあると。つまり、気力がまず充実してなきゃいけないし、引き出しが多くなければですね、長い討論の中にこう生き延びていけないという部分もあって、ここから先はまさに経験よりも体力勝負、知力勝負(になる)。


ーー一方、立憲民主党代表選も告示されています。JNNの世論調査(9月7、8日)では野田佳彦さんの支持率が高くなっていますが?

後藤謙次氏:
野田さんが総理経験者であるということが非常に大きくてですね。しかも 野田さん自身が 2012 年に党首討論で安倍さんに「解散やってもいいですよ」と、「あさって16日にも解散しますよ」と(言って)。その解散で敗退をして総理大臣の座を失ってしまった。その野田さんが蘇ったと私が思うのは2022年の安倍さんの死去を受けた、あの弔辞ですよね。安倍さんを悼むあの弔辞が多くの国民の共感を得てですね、それと共に野田佳彦さんも復活を果たしてきたと、そういう意味で非常に皮肉ですけども。安倍さんによって政権を失いましたけれども、同時に安倍さんによってまた浮かび上がってきたという点では、保守も安定して押せるという人が野田さんの強みじゃないかと思いますね。

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