海面水温が著しく上昇するいわゆる「海洋熱波」の影響で、三陸沖では取れる魚種が変化するだけでなく、養殖にも工夫が必要になってきています。今後、私たちをとりまく気候をも大きく変えてしまう可能性があります。

さらに沖へ、養殖場所を変える漁師

8月29日、宮城県石巻市の寄磯漁港です。漁港から船を出すのは、ホヤ漁師歴40年以上の斎藤寿さん。通常は漁港から10分ほどの場所でホヤの養殖を行ってきましたが、現在は、さらに先の15分ほど離れた場所で行っています。

ホヤ漁師 斎藤寿さん:
「寄磯の場合はこうやってロープにホヤが残っている。だから他の浜と違って夏腐れとか高水温による死滅が、漁場がいいために少ない」

海水温の上昇で、養殖していたホヤの多くが死滅する大きな打撃を受けた所もありましたが、斎藤さんのホヤは、大規模な被害を免れ、今年度も例年並みのおよそ45トンの水揚げを見込んでいます。

ホヤ漁師 斎藤寿さん:
「他の浜と違って寄磯の場合はホヤが主流なので、イカダの取り回しもできる。出荷させるまでに2回ホヤを移動させる」

斎藤さんのホヤは養殖開始から4年ほどで収穫。翌年出荷される予定のホヤは水温が低く、潮の流れがよい沖に離れた漁場へ移動させ、ホヤを死滅から守る狙いです。

肌で感じる「海の異変」とは

高い水温による被害を最小限に留める斎藤さんですが、海や気候の異変を感じています。

ホヤ漁師 斎藤寿さん:
「海の中に手をいれても、全然冷たくないってのがやっぱり分かる。沖作業してても(暑さで)一日通して作業することができなくなった」

高い水温の影響は取れる魚にも現れています。

8月10日、石巻魚市場での水揚げです。網の中から現れたのは、大量のタチウオ。以前は西日本で水揚げ量の多かったタチウオですがピーク時の2021年にはおよそ430トン。水揚げ量がまとまり始めた2013年の6トンと比べると70倍にも増えました。

石巻魚市場 佐々木茂樹社長

石巻魚市場 佐々木茂樹社長:
「(今年も)暖水系の魚種が優勢ですね。ここ5~6年そういう傾向がずっと続いてますし、海水温もかなり高いですので、どうしても暖かい水を好む魚が多くとれてます」

世界で最も海水温が上昇したのは三陸沖

親潮と黒潮がぶつかり合い、豊かな漁場として知られる三陸の海。高い海水温の大きな要因のひとつは暖かい海流「黒潮」の北上でもたらされる「海洋熱波」だと研究者は話します。

東北大学理学部 杉本周作准教授:
「海面水温(のデータ)を集めてきて、高い順に並び替えて上位10%に入るぐらいの大きさである状態を海洋熱波と私たちは定義している」

東北大学理学部 杉本周作准教授

さらに杉本准教授は、この1年、世界で最も水温が上昇したのは、三陸沖だと指摘します。

東北大学理学部 杉本周作准教授:
「(海面水温が)6度上がったというのは観測史上最高になります。これだけ上がった海は、(1982年以降)これまで、どこの海を探してもどの年代を探してもなかった」

「海洋熱波」が気候も変える

世界でも類を見ない海水温の上昇。海の生き物だけでなく、暑さや降水量にも影響が大きいと見られます。

東北大学理学部 杉本周作准教授:
「水温が高いというのはそれだけ気象災害、台風に伴う大雨をもたらしたり、気温をあげてしまったり、気候を変えてしまう要因になります」

養殖施設を水温がより低い沖に移動させることでホヤを守った石巻市の斎藤寿さん。斎藤さんはホヤのみを扱っているため養殖施設をスムーズに移動させることができました。しかし、来シーズン以降も同じ方法でホヤを守れるのか、不安があると話します。

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