能登半島地震の被災者が暮らす1次避難所の扱いをめぐり、波紋が広がっている。石川県の馳浩知事は、9月末までの解消を目指すと明らかにした。(田嶋豊)  広域避難所や1.5次避難所も同じく9月末まで、旅館やホテルといった2次避難所と県外公営住宅は年内に解消を図る考えを示した。避難所の解消はあくまで原則で、仮設住宅への入居待ちなど個別の事情に配慮し、強制的な退去は求めない。  県によると、8月28日現在で体育館や公民館など市町指定の1次避難所や2次避難所などに775人が避難し、県外の公営住宅には35都道府県には555人が身を寄せる。

いまだ7人が避難生活を送っている避難所=8月28日、石川県珠洲市の旧上黒丸小中学校で

 市町から要望のあった仮設住宅の9割が8月末に完成。追加要望分も含めて11月ごろまでに完成する見通しで、自宅の修繕などさまざまな選択肢を示し、避難所の解消を目指す。馳知事は「行き先がないのに『出て行け』ということは絶対しない」と説明した。

◆福祉施設入所者の受け入れ先は不足

 これとは別に入所していた福祉施設が地震で利用できなくなり、別の施設に身を寄せる人が県内外の約460施設に合わせて約1400人いる。能登6市町では休止した28施設のうち、8施設で再開の見通しが立っていなかったり、廃業を決めたりしているため、受け入れ先が不足している。  この約1400人のうち、約半数が調査に「元の施設や元の地域に戻りたい」と回答。県は福祉人材と受け入れ先を確保するため、離職防止や復職などを目的とした手当を職員に支給する施設に対し、1人あたり15万円の手当を助成。施設の復旧費なども補助する。  馳知事は8月28日、「住まいや生活再建などの課題には真摯(しんし)に向き合い、被災者の不安が少しでも和らぐように対応する」と強調。県外の公営住宅で暮らす人の約6割が「石川に戻りたい」との意向を示しており「2地域で居住するモデルも構築したい」と述べた。 ◇   ◇

◆輪島市「9月末の解消難しいのでは」

 1次避難所16カ所に177人(8月26日時点)が避難する珠洲(すず)市は閉鎖時期を定めていない。9月末までに完成しない見通しの仮設住宅もあり、市担当者は「自然解消を目指す。閉鎖し出て行ってもらうつもりはない」と強調する。7人がいる旧上黒丸小中学校(若山町)の避難所を運営する地元の住民、本鍛冶(もとかじ)千修さん(72)は「寝耳に水。避難者も『できるわけないじゃないか』と話していた」と明かす。  1次避難所13カ所で約120人(8月27日時点)が過ごす輪島市。完成が10月にずれ込む仮設住宅もあり、市担当課は「9月末の解消は難しいのでは。閉鎖は皆さんが仮設住宅に入られた後」と話す。  大屋公民館にいる坂下宏さん(66)は9月12日に仮設住宅の鍵を受け取るが、その後入院を予定する。「9月中に何とか入居できると思うが、10月にずれ込む人もいるのでは」と話す。「自宅の建て直しは無理。最大の不安は2年後どこに行けばいいか」と災害公営住宅の建設の見通しを示すよう求める。

◆2次避難者受け入れの旅館「納得して出ることが最優先」

 1.5次避難所のいしかわ総合スポーツセンター(金沢市)にいる輪島市町野町の60代男性は、仮設住宅に入るため9月1日ごろ地元に戻る。「住み慣れた場所に戻れるのはいいが、全壊の家の建て直しが高額になりそう」と不安げだ。  加賀市の旅館「加賀百万石」には約40人が2次避難。北嶋荒御前(みさき)神社(珠洲市)宮司亀山国彦さん(65)は「私たちは(地元に)戻るめどが立ったから理解できるが、仮設住宅への入居のめどが立たず不安な人もいるのでは」と語る。加賀百万石の吉田久彦社長(41)は「納得して出ることが最優先。2次避難制度がある限り、受け入れ続ける」と話した。(高橋信、奥田哲平、鈴木沙弥、小川祥) 

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