17年に渡って争われてきた「被爆体験者」の裁判が、9日に判決を迎えます。原告の多くがこれ以上裁判を続けることが難しいとしており、被爆体験者を巡る最後の判決になる可能性があります。「埋もれた被爆者」とも言われる被爆体験者、救済の行方は?

被爆79年の8月9日。平和祈念式典後に毎年行われている被爆者団体から総理大臣への要望の席にことし初めて「被爆体験者」が参加しました。

被爆体験者・岩永千代子さん:
「総理にぜひ見て頂きたい絵を持って参りました。鈴木さん達が描いた絵です。空が暗くなり太陽は真っ赤。家族の中に甲状腺がんや白血病等が現れるようになった等の多数の証言があります。総理に申し上げます。私達は被爆者ではないのでしょうか?」

被爆体験しているのに・・・

1945年、アメリカ軍が長崎市に投下した原子爆弾。強烈な熱線・爆風・放射線によってその年だけで7万4千人が死亡しました。

国は原爆の影響を認める半径5キロを基本に当時の長崎市を被爆地域に指定。「被爆体験者」はその周辺、爆心地から12キロ圏内の被爆未指定地域にいた人たちのことで原爆の影響はないとされています。

しかし広島では被爆地域の外で「黒い雨」を浴びた人たちが裁判の判決を機に2年前から被爆者と認められるようになりました。2021年に確定した広島高裁判決。「黒い雨」に含まれた放射性微粒子による内部被ばくの可能性を認めた画期的な判決でした。

判決を受け入れた国は新たな基準を作り遠くは爆心地から40キロまで「黒い雨」が降った地域にいた6千人以上を被爆者と認めました。しかし救済したのは広島だけ。

面会の席で被爆体験者は「同じような状況だった自分たちを被爆者と認めないのは憲法違反だ」と訴えました。総理はー

岸田総理大臣:
「政府として早急に課題を合理的に解決できるよう指示をいたします」

「被爆者と認める」ーとは言わなかった岸田総理。

全国被爆体験者協議会・相談役 平野伸人さん:
「総理…被爆体験者は被爆者でしょ、被爆体験者は被爆者じゃないんですか?これを見て下さい。被爆者かどうか言ってください」「被爆体験者は被爆者じゃないんですか?岩永さんの声が聞こえないんですか?」

岸田総理:
「一生懸命やりますので」

この5日後、岸田総理は突如退陣を表明。救済の行方は不透明です。

大雪のように降った「大量の灰」

「こんにちは」
被爆体験者を代表して発言した岩永千代子さんです。9歳の時、爆心地から10.5キロの場所で閃光と爆風を浴びました。歯茎から出血し顔が腫れ、40代で「甲状腺」の異常を指摘されました。2007年から続く裁判の原告団長をつとめ聞き取りを続けてきました。

「亡くなった…」「腹が膨れて死んだ…」「兄弟2人白血病とかガンばっかりとかね…なんでやろうと思ったんですよね」

原爆投下後、広島で「黒い雨」が降ったように長崎では「灰」が広く降り注ぎました。

被爆体験者・林田富雄さん(85):
「燃えかすが来たんですこっちに。灰の山、農作物は灰の山」

被爆体験者・松田宗吾さん(90):
「雪の降るごと灰は空暗くなるように降ってきた」

原爆の灰や雨を浴びて体がおかしくなった、死んだ人もいるという訴えはもう半世紀続いています。長崎市も独自に証言を集めて国に被爆地域の是正を求めてきました。

その中で国が作り出したのが「被爆体験者制度」でした。被爆体験のトラウマが原因で病気になった可能性があるとして精神疾患に関連する医療費を助成するものです。同じ動きは広島でもあったといいます。

広島「黒い雨』被害者・高東征二さん(83):
「広島でもあったんよ。精神的な問題にすり替えようとしたけんそれは違う。なんで癌で精神科行かないといけないのか」

岸田総理の約束は?

「合理的解決」が何を指すのかはまだ分かりません。裁判は555人が最高裁で敗訴、再提訴して44人だけが続けており9日が判決です。被告には国も訴訟参加人として入っており「広島高裁判決の解釈は誤っている」と受け入れた判決を否定しながら被爆体験者は被爆者ではないと主張しています。

被爆体験者訴訟原告代理人・中鋪美香弁護士:
「黒い雨と放射性降下物は実は同じなんですよ。上空で長崎乾燥してたので蒸発して放射性微粒子の状態で降ったというだけなので」

被爆体験者訴訟原告代理人・足立修一弁護士:
「ほぼ同じ現象が起こってる広島と長崎で全く結論が違うのはどう考えてもおかしいんですよ」

79年間認められていない原爆被害、被爆体験者が訴える「内部被ばく」は司法の場で認められるのか?

被爆体験者訴訟・岩永千代子原告団長:
「声も出せない死んでいった人、この人達実態を絶対どこかで研究して欲しいし深めて欲しいしね」「原爆の本当の怖さ、人間がどう生きなければいけないかということの指針がね、指針がきっと(判決)を通して示されると思う」

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