難病の顔面動静脈奇形で、生まれつき顔が変形している富山県の河除静香さん(49)。見た目を気にしながら生きてきましたが「やりたことを堂々とやってみよう」と、劇団員となりマスクをはずして舞台に立つ決意をします。そして迎えた初演、はたして観客に受け入れられたのでしょうか、観た人は何を感じたのでしょうか。

舞台本番「不思議なことに、今でもあの頃のことを思いだすと、どうしても一緒にミントを思い出してしまう」

9月1日。富山県砺波市で上演された劇団すばるの第60回公演『ミント』。

この舞台に、特別な思いで立つ劇団員の女性がいました。

河除静香さん「かっこよく演じたいですね。…私自身はかっこよくないかもしれないけど、でもかっこよく見えたよっていうふうに言ってもらえるような演技をしたいです」

河除静香(かわよけ・しずか)さん(49)です。

舞台セリフ「しょうがないんじゃないですか、それがあの人の仕事なんですから」

この舞台に立つために、およそ1年間稽古を重ねてきました。

河除さん「超難しいです。なにせ新米なので」

生まれつき「顔面動静脈奇形」という難病で、手術を繰り返してきた河除さん。幼い頃から見た目を揶揄されたり、奇異な目で見られたりしてきました。

河除さん「とにかく相手が憎くて、ほんとに1日1日乗り越えて耐えるしかない。この感情は誰にも言えなかった…」

舞台セリフ「俺は、悪魔だ!」

河除さんは、自らを題材にした自作の一人芝居を10年前から演じ「見た目問題」を考える機会としてきました。

そんな河除さんに去年、新たな気持ちが芽生えました。

河除さん「見た目問題とかそういうこと関係なく、誰かと一緒に芝居してみたい」

「やーあ!武田さん、おめでとーう!ありがとうございます」

去年、砺波市で50年以上続く劇団すばるの門を叩きました。

話し合いを重ね「マスク」なしで出演へ

舞台セリフ「(河除さん)ちょっと奥さんの写真、見ていいっすか?(先輩)いいわけねぇだろ」

初舞台にして演じるのは30代サラリーマンの「男性役」です。

演出の女性「スピードのバランスが(よくない)。もっと乗っかってポンポンポーンっていったほうがいい」

男性らしい仕草に加え、セリフの間やテンポなど人との掛け合いに悪戦苦闘…。

さらに、こんな不安もー

河除さん「一番怖いなと思ったのが、私が出ることによって、すばるの芝居が壊れてしまうんじゃないかっていうのが、それだけは嫌だなって思ってて…」

「マスクをはずして」舞台に立っていいのか悩んでいました。

ある日の練習後ー。

演出担当 つむぎさん「私から見れば、いまの演技であれば、そのままでも十分対応できる。お客様もご納得いただけるという判断をしてますので…」

何度も話合いを重ね「マスクなし」で挑むことになりました。

【本番当日】(発声練習)「では発声いきます。吸って、吐いて。あーーーー」

河除さん「(Q.ドキドキしてる?)意外と緊張してなくて。出るからには、もう顔のことは気にせず、堂々とかっこよく見えるように(やりたい)」

そして開演3時間前…。

「お願いします」

かっこいい30代サラリーマンに変身です。

河除さん「完成させて、していただきました。日本語おかしい?ははは」

座り方も、すっかり男性です。あとは、ウィッグを被れば完成ですがー、実はこのウィッグ。

(河除さんの自宅)河除さん「このウィッグ、だめやわ!」「ちょっと違うよ!?なんのコント?みたいな。笑」「(Q:思ってたのと)違う」「なんか違うよね…」

河除さん「要検討!」

河除さん「私の信頼しとる美容師の方がおられるがですけど、その人がめっちゃいい感じにしてくれて。(橋本:本番を楽しみに)あははは」

全力で、心をこめて、舞台に立つ…

開場と同時にたくさんの人が。あっという間に満席です。

「いやぁ武田さん!おめでとう!ありがとうございます!」

舞台の幕が上がりました。

「かんぱーい!」

今回の演目『ミント』は、人生の岐路に立つ3姉妹を描いた群像劇。家族や、結婚、友人関係など日常の身近な悩みがテーマです。

河除さんは、交際歴5年の彼女がいながらなかなか結婚に踏み切れない30代男性・順也を演じます。

本番
「なんで結婚しないわけ?なにをトロトロやっちゃってんのよ?」
「だから、この前話したじゃないっすか、自分でもよく分からないって」
「まさか信じてるんじゃないだろうなぁ『結婚は人生の墓場』だなんて」
「そういうわけじゃないんですけど」

先輩の話を聞いて、一大決心をした順也。思い切ってプロポーズしますがー

「俺と一緒に…。(コーヒーかけられる)あっつ!(指輪の箱を払い落とす)楓!」

「…ちょっと待ってよ!待ったよ!プロポーズだって充分待ったよ!自分が嫌いになるくらいに…これ以上嫌いになりたくない!」

自分を見つめ直し、改心した順也はー

「(深々とお辞儀)お姉…」

「…俺はもう、君の手を放したくない。握っていたい。ずっとそばにいてほしい。(指輪の箱を出す)結婚してください!」

「ずるいなぁ、ずるいよ…(抱きしめる)うっ。絶対に離さない」

「ありがとうございました」(拍手)

河除さんの芝居を見て、観客は…。

男性「すごい全力で舞台に立ってるんだなと思って、それも含めすごくよかった」

親子(母)「正直に言っていいですかね、はじめちょっとびっくりしたんですけど、でもなんかすごく目とかが、心こもってて、よかったです。うん、かっこよかったです」
(娘)「ハイスペックイケメンにしか見えなかったですね」

観客「かっこよかったです」

河除さん「あぁ、めっちゃうれしいです。そう言ってくれてほっとしました」
女性「ファンになりましたもん」
河除さん「えぇー!超うれしいです」

河除さん「あぁかっこよく見えてたんだ、よかった、うれしい。本当に励みになります」

今回の舞台の演出担当もー

演出担当 つむぎさん「河除さんを「順也」にするっていうのは、大きなことだったなと。お客さんの表情とか反応見て改めて思いましたね。やっぱり形じゃなくて心なんだなって」

写真撮影「はい、チーズ」

河除さん「私みたいな、見た目問題の当事者でも、舞台に立って、こんなに輝けるんだっていうのを見てもらえたらいいなと。いつか主役を。ははは。大きく出ましたが…」

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