樹木を墓標とする「樹木葬」が、緑豊かな岩手県一関市で始まって今年で25年になる。調査によると、今や墓石型や納骨堂よりニーズは高く、日本の葬送で主流になろうかとしている。樹木葬を考案した知勝院(一関市)の元住職千坂嵃峰(ちさか・げんぽう)さん(79)はどう感じているか。これまでを振り返った。(木原育子)

◆「お墓が嫌なのでは」が原点だった

 「墓地が単に遺骨を納める役割だけでなく、『つながり』を感じさせる場にする必要があった」。千坂さんが樹木葬の原点を語る。

日本で初となった知勝院の樹木葬。自然豊かな土地に遺骨が眠る=岩手県一関市で(知勝院提供)

 樹木葬を考案したきっかけは、海洋散骨について、節度をもって行う限り違法ではないとする見解を法務省が示した1991年にさかのぼる。  議論の高まりに「お墓が嫌で海洋散骨を選ぼうとする人もいるのでは。檀家(だんか)制度に安住してきた宗教者の責任もある」と思うように。かねて奥州藤原氏の遺跡の保存運動をする中で里山の大切さを感じており、「生命の息吹や循環を感じてもらいたい」と樹木葬を思い立った。

◆「平均64万円」一般墓の半分以下

 1999年に墓地の許可を受け、同年11月11日に最初の遺骨を納骨した。25年間で需要は増え、第3墓地まで増設。面積は当初の5000平方メートルから6万平方メートルに拡大した。全国から2000体近い遺骨が眠る。

樹木葬を考案した千坂嵃峰さん

 終活関連事業を手がける鎌倉新書(東京)は毎年、墓購入者への調査を実施している。それによると、樹木葬の購入者は年々増え、2020年に墓石型の一般墓を抜いた。昨年の調査では、樹木葬が48.7%と半数近くを占め、墓石型の一般墓は21.8%、納骨堂は19.9%。平均購入額は樹木葬は約64万円で、一般墓の約150万円、納骨堂の約80万円より安い。

◆墓石型は「制度疲労を起こしていた」

 樹木葬が受け入れられた理由は何か。  千坂さんは「日本の墓地はイエ(家)が数代続くことに感謝する意識が根底にあったが、イエの永続性が保障できない時代に入った。命のつながりを実感でき、癒やしに満ちたメッセージを受け止めてもらえる樹木葬が受け皿になりえたのではないか」と語る。  社会福祉士で、葬送の支援を行う「お墓コンサルタント」の吉川美津子さんも「墓石型は子々孫々がベースで、生涯未婚率の上昇など子どもがいないことや、いても負担になりたくないなど制度疲労を起こしていた。墓石型より安価という手軽さもある」と話す。

◆死後も「森づくりで社会貢献できる」

 樹木葬は個別区画に樹木を植えるタイプだけでなく、区画が分かれていない合祀(ごうし)型、ペットとの合葬など多様化している。

亡くなった後も森づくりで社会貢献できるという「森の墓苑」(日本生態系協会提供)

 例えば「森の墓苑」(千葉県長南町)は環境保全をコンセプトに、公益法人「日本生態系協会」が開いた。開発で失われた自然を再生するため、木を墓標として植えて森を育てる試みで、区画販売で得た代金も森林保全活動に充てている。協会参事の佐山義則さん(60)は「死後も森づくりを通して社会貢献できる」と語る。  裾野が広がる樹木葬。千坂さんは「良き自然や良き未来を後世に、という願いはどんな形の樹木葬であっても変わらない。生命を見つめるいとなみを続けてほしい」と語る。

◆公開シンポジウムを9月8日開催

 千坂さんと葬送ジャーナリスト碑文谷創さんとの対談など日本葬送文化学会創立40周年を記念した公開シンポジウムが9月8日午後1~5時まで、東京都新宿区のTKP市ケ谷カンファレンスセンターである。参加費は1000円。申し込みは知勝院=0191(29)3066=へ。 

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