日本育ちだが外国籍で在留資格のない「仮放免」の若者たちが、就職先が内定しても入社できないケースが相次いでいる。出入国在留管理庁(入管庁)が、就労に必要な「在留特別許可(在特)」を認めないため。一部は政府が昨年に発表した特例による在特付与の方針に反している可能性も指摘されており、支援者たちは適切な対応を求めている。(池尾伸一)

 仮放免者 超過滞在(オーバーステイ)で日本での在留資格を失ったものの、入管施設に収容されず一時的に解放された外国人。2023年末で4133人。母国で迫害されて来日したが難民と認定されなかった人や、日本で生まれ育った子どもたちもいる。県境をまたぐ移動を禁じられるなど制約の多さから「おりのない監獄」とも呼ばれる。労働も禁止で、就職するには法相が職権などで在留資格を与える「在留特別許可(在特)」が必要。

◆会社は「採用したい」のに入管庁から回答がない

 中東出身の父、南米出身の母を持つ神奈川県の仮放免中の男性(22)は日本で生まれ育ち、大学で異文化コミュニケーションを専攻して3月に卒業。4月から同県内の不動産会社で働く予定だったが、在特が認められず入社できていない。同社は「外国の客が増えており採用したい」と入管庁に男性の在特を求めて嘆願書を提出したが、回答はない。

採用内定通知を見せる男性=神奈川県内で(一部画像処理)

 男性は「このままでは内定が取り消される」と不安を募らせている。  入管庁は昨年8月、日本生まれの仮放免の小中高生には、特例で在特を付与する方針を公表。当時の斎藤健法相は、学校を卒業し成人した場合も「基本的に在特を認める」と明言した。男性の代理人の大橋毅弁護士は「在特を認めないならこの方針からの逸脱になる」と指摘。支援者らは8日に集会を開く。  入管庁は取材に「法相の発言は踏まえているが、個別案件には答えられない」と述べるにとどめた。

◆生まれ育った環境は選べないのに…

クルド人女性にオンラインで届いた大手航空会社のグループ企業からの採用内定通知=埼玉県内で(一部画像処理)

 また、トルコ出身の少数民族クルド人女性(21)=埼玉県=も、大手航空会社のグループ企業から地上職の内定を得ながら、今年初めに取り消された。女性は日本生まれではないが、母国で迫害され、幼いころに家族と来日。難民申請も認められていない。専門学校の卒業は来春に迫り、「航空会社で働く子どものころからの夢をかなえるため、必死に勉強してきたのに」と涙する。

大手航空会社のグループ会社からオンラインで届いた内定通知を見返す女性=埼玉県内で

 入管行政に詳しい指宿昭一弁護士は「入管庁は昨年出された方針を狭く解釈し、在特の対象者を絞ろうとしている」と指摘。「生まれ育った環境を選べない若者が働くこともできない状態に放置されているのは、非人道的で社会にも損失。在特のガイドラインも人道上の配慮の必要性を明記しており、早急に在留資格を与えるベきだ」と話した。 

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