東京電力福島第1原発2号機で溶け落ちた核燃料(デブリ)の微量を採取する作業がミスで延期された問題で、東京電力は5日、原因の調査結果を公表した。高い放射線量下で作業員が準備を急ぎ、思い込みでミスに気付かなかったなどとした。現場に東京電力社員がいない下請け任せの姿勢と、点検でミスを見抜けない管理のずさんさを露呈した。東京電力は再発防止策を講じた上で、来週にも採取に着手したい考えを示した。(荒井六貴、山下葉月)

◆「思い込みの連鎖」と「下請け任せ」

装置に使用するパイプ。先端部はそれぞれ養生されている=福島第1原発で(東京電力提供)

 ミスがあったのは、デブリを採取する釣りざお式の装置を、格納容器まで伸ばすための押し込み用のパイプ(約1.5メートル、直径約16センチ、重さ約95キロ)。5本のパイプをケーブルでつなぐ作業で、先頭を4番目に取り違えてつないだ。  東京電力によると、5本は外観がほぼ同じだが、一部はねじ穴の有無などで仕様が異なり、接続順を誤ると途中で押し込めなくなる恐れがある。  2号機原子炉建屋内で7月27日、作業員が装置の手前までパイプを運搬。その際、パイプを1本、仮置き場に忘れた。28日につなぐ際、足りないことに気づき、29日に4番目につないだ。忘れたのは先頭のパイプなのに2番目と思い込んでいたため、4番目につないでも問題がないと判断。思い込みの連鎖が起きた。  要因として現場の放射線量が高く、作業員が長時間とどまれないことから作業を急ぎ、確認が不十分でミスに気づかず、正しいと思い込んだことを挙げた。作業員は全面マスクで防護服の重装備だったため、パイプに記された接続順を示す数字を見落とした。さらに、現場を仕切った元請けの三菱重工業の担当者は「28日に準備が終わった」と東京電力に虚偽の報告をしていた。  東京電力は現場に社員を立ち合わせず、パイプの接続順を点検項目に入れていなかったためチェックせず、ミスに気づけなかった。東京電力の小野明・廃炉責任者は「見通しの甘さがあった。今後は安全と着実さを幅広く考えていく必要がある」と反省の弁を述べた。    ◇   ◇

◆ミスの現場に「東京電力社員」はいなかった

 東京電力福島第1原発事故で2号機の溶け落ちた核燃料(デブリ)の微量採取が「初歩的ミス」で延期された問題で、東京電力が作業を協力企業任せにしていた実態が浮かんだ。廃炉作業では昨年10月から汚染水漏れなどのトラブルが相次ぎ、東京電力の作業管理の甘さが指摘されてきた。東京電力が再稼働を目指す柏崎刈羽原発の地元の新潟県から厳しい視線が注がれる。  「協力企業の確認に任せ、自分たちで確認していない。大いに反省すべきだと思っている」。東京電力の小野明・廃炉責任者が5日、ミスの原因と対策を説明する記者会見で述べた。  ミスのあったパイプの接続作業には7月27〜29日の3日間、各60人ほどで当たった。指示を出していたのは元請けの三菱重工業の担当者。パイプの運搬や接続は下請けの作業員が担当した。東京電力の社員は現場におらず、関わったのは作業後の30日の点検に入ってからだった。

◆「東京電力の関与が薄かった」トラブルやミスは後を絶たず

 東京電力によると、福島第1の廃炉作業には1日約5000人が携わる。うち東電社員が約1000人。現場の作業の中心を、元請けや下請けの約4000人が担う。  東京電力の社員は主に、作業の危険や進捗(しんちょく)状況などをチェックする。しかし、作業の管理は甘く、昨年10月に汚染水の多核種除去設備で作業員が洗浄廃液を浴び、想定外の被ばくをするなどトラブルが続いた。  今年4月に起きた、構内の一部での停電では、地面を掘削する際に電源ケーブルを損傷させる危険性を、東京電力が元請けに注意喚起しなかったことが要因だった。対策として掘削現場に立ち会うことなどを挙げた。

2号機原子炉建屋内でパイプを運搬する作業員=福島第1原発で(東京電力提供)

 これまでのトラブルと今回のミスの類似点を問われた小野氏は「東京電力の関与が薄かった。すべては難しいので、重点を置く所を確認する」と説明した。

◆柏崎刈羽原発の地元では東京電力不信が深まる

 廃炉作業でトラブルが続く一方で、東京電力や岸田文雄首相は柏崎刈羽原発の再稼働に前のめりだ。7号機は核燃料が装塡(そうてん)され、すぐにでも再稼働できる状態。だが、地元の同意が得られていないため、立ち往生している。  岸田首相は「残された任期の間に(脱炭素化の)グリーントランスフォーメーションを一歩でも前進させるために尽力する。その一つが東日本での原発再稼働の準備だ」と主張。6日に原子力関係閣僚会議を開き、地元同意をとりつけるための方策を示す考えだ。

柏崎刈羽原発(資料写真)

 柏崎刈羽6、7号機については原子力規制委員会が2017年、新規制基準に適合したと判断。その後、テロ対策の不備が相次ぎ、2021年に事実上の運転禁止を命じた。解除されるまでに2年半以上かかった。今回のミスで、立地する新潟県では、東京電力に対する冷ややかな見方が消えない。  柏崎刈羽の30キロ圏に位置する燕市の長井由喜雄市議は「東京電力は、廃炉まで責任があるのに果たせていない。原発を運転する資格があるかどうかを言う以前の問題」と憤る。  自民党のベテラン県議は「東京電力の信頼は失墜したままなのに『またやったのか』という感じだ。デブリを3グラム取り出そうとしているだけでも、なかなか進まない。廃炉は無理なのでは」と疑問を呈した。東京電力への不信に加え、事故時の避難計画にも不備があることを挙げ「再稼働の判断ができるような段階ではない」と突き放した。 

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