鹿児島市の米盛病院が先月、救命救急センターに指定されました。今月9日には開所式が開かれます。

こちらが県内4つの救命救急センターです。鹿児島大学病院、鹿児島市立病院、県立大島病院、そして米盛病院。離島の県立大島病院以外の3か所が鹿児島市に集中しています。

霧島地域や大隅半島からは遠く、住む場所によって受けられる医療に差が出る「医療格差」が続いています。現状を取材しました。

(米盛病院 冨岡譲二副院長)「ここは救急調整室と言って、救急救命士が常駐して救急隊からの電話を受けて出動する調整をしている」

鹿児島市の米盛病院です。救急調整室では、救急救命士が24時間体制で出動要請を受け付けたり、病院が独自に設けている救急相談ダイヤルに対応したりしています。

副院長の冨岡譲二さん。1969年に整形外科医院としてスタートした米盛病院が、10年前に与次郎に移転して以来、救急医療の充実を図ってきました。

(冨岡譲二副院長)「ハイブリッドERと言って、救急外来で診察もできるし、CT検査、さらに手術もできる。日本で2番目につくった」

こちらは救急室「ハイブリッドER」です。救急車が到着する場所のすぐ近くにあり、「診断」と「治療」が同時に行えます。

移転当初から、県内初の民間救急ヘリも運用していて、県のドクターヘリが出動中で対応できない場合も代わりに救急患者を搬送します。

(冨岡譲二副院長)「きのうきょう考えたことではなく、新しい病院を建てることになった10数年前に最初からそのコンセプトで、人や物、施設をそろえて準備してきた。その集大成として救急救命センターの指定がある」

救急医療は、比較的軽症な一次救急と手術や入院が必要な二次救急、命に関わる重症患者に対応する三次救急に分かれます。

救命救急センターはこの三次救急にあたり、24時間体制で患者を受け入れるため、地域医療の「最後のとりで」とも言われます。県が米盛病院をセンターに指定した背景には、他県より遅れた現状があります。

県によりますと、人口100万人あたりの救命救急センターの設置数が県内は1.9か所と全国で41位でしたが、米盛病院の指定で23位に上昇しました。

センターに指定された病院は、救命救急入院料の診療報酬点数で加算を受けられるため、県は「救急医療がより安定的に運営できるようになる」としています。

しかし、課題は、救命救急センターの「偏在」です。鹿児島市から遠い地域では、重篤な患者をすぐに診られません。

大隅半島の1市4町を管轄する大隅肝属地区消防組合です。昨年の救急の搬送件数は7983件。高齢化を背景に、救急の搬送件数が3年連続で増えています。

(大隅肝属地区消防組合 前村春海次長)「1年で600件ぐらい増えている。高齢者の搬送が7割ぐらい。救急の件数が増えている」

救急搬送が増える一方、全身やけどなど重症患者は大隅半島では対応できないのが現状です。去年、鹿児島市に搬送したのは、全体の2.5%にあたるおよそ200件。割合でみると多くはありませんが、搬送に使う救急車は10台しかなく、ギリギリの状態だといいます。

(大隅肝属地区消防組合 前村春海次長)「(鹿児島市まで)片道2時間半はかかるので、往復4~5時間(は救急車がない)。その間が管内の救急の需要に対応できないことも今後はあり得る。救急がこれ以上増えれば」「3次救急の医療機関があれば、ありがたい」

なぜ大隅半島に救命救急センターがないのか。拠点病院の一つを訪ねました。

医療法人徳洲会が運営する大隅鹿屋病院です。10年前に新築されました。救急患者を受け入れるため屋上にヘリポートが作られ、救命室や集中治療室にそのまま運べる動線にするなど、救命救急センターの指定を目指してきましたが、指定は簡単ではないと話します。

(大隅鹿屋病院 木村圭一副院長)「医者が集まらない。うちの病院でも全然足りてない。(センター指定を)目指しているが、ハードルが高い」

救急救命センターは、幅広い診療科への対応が求められますが、大隅鹿屋病院には現在、整形外科と小児科、眼科、耳鼻科、精神科の専門医がいません。救急科の専門医も1人だけです。設備を整えられたとしても、地方では人材確保が難しいのが現状だといいます。

(大隅鹿屋病院 木村圭一副院長)「電車も通っていないし、子どもがいる医者は、子どもが遊ぶところもない。みんな都会で仕事したいのでしょうね」「得意な分野をお互い分け合って、鹿屋市内は大きな病院が4つあるが、協力してやっていくしかない」

新たな救急救命センターの配置について、県に具体的な計画はなく、病院から手が挙がるのを待っている状態です。

この10年で申請を行ったのは米盛病院だけでした。米盛病院は、鹿児島市外からの患者の受け入れを積極的に行っていく方針です。

昨年度、救急車や救急ヘリによる救急搬送で受け入れた重篤な患者の数は1366人。そのうちおよそ4割が、鹿児島市外からの受け入れでした。

(米盛病院 冨岡譲二副院長)「地域の偏在はその通り。そこに救命センターがあるのが理想だが、すぐにできるかというと受け皿がない。その間に失われる命もある」「(センターの指定で)地域の偏在化のことを県全体で考えていく布石になれば。それが叶うまでやっていきましょうと」

鹿児島市外からの救急患者の受け入れは、鹿児島市立病院では、救急車やドクターヘリだけでなく、自家用車などでの来院も含めた患者9075人のうち25.3%を占めています。鹿児島大学病院は、市外から受け入れた割合は集計していないとしています。

米盛病院をセンターに指定するかどうかの議論で改めて浮き彫りになった地域の医療格差の問題。県民の命に直結する喫緊の課題です。

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