ITERの外側垂直ターゲットの右半分。奥側を起こして立てて使う。薄い銅板をらせん状にしたもの(左)が冷却管の中に入っている

 三菱重工業と量子科学技術研究開発機構(QST)は、日本と欧米、ロシア、中韓、インドの7極が共同でフランス南部に建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)に使われる重要な部品の試作品を完成させました。この部品は、原子核同士がぶつかってくっつく核融合反応で生じる不純物や熱を除去する機器「ダイバータ」のうち、日本が製作を担当する「外側垂直ターゲット」と呼ばれるものです。  外側垂直ターゲットは、左右二つを並べて1基と数えます。54基並べると360度そろってドーナツ形になります。日本は予備を含めた全58基を製作するのですが、今回の試作品の完成により、量産化の準備が完了したといいます。試作品1基の左半分は既にフランスに運ばれており、右半分が7月31日に横浜市内で報道陣に公開されました。  試作品の右半分は、高さ1.5メートル、幅30センチで、重さ750キロ。ステンレスの構造物の上に、冷却管が貫通した「タングステンモノブロック」(縦横約3センチ、厚さ1.2センチ)を約1600個載せた造りです。核融合が起こると、小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還するため大気圏に突入した時と同じくらいの熱負荷にさらされるといいます。タングステンは、融点が金属元素で最も高い約3400度です。冷却管には、薄い銅板をらせん状にしたものが入っています。これは、流れる水を回転させて冷却効果を高めるためのものです。  三菱重工業の前田達志・核融合推進室チームリーダーは「タングステンモノブロック一個一個が0.1ミリ単位の精度を満たしている」と話します。QSTの鈴木哲・ITERプロジェクト部次長は「ダイバータは、核融合炉の経済性を決める重要機器」と強調します。  核融合による発電は、二酸化炭素を出さず、燃料の重水素は海水から無尽蔵に取り出せると期待されています。しかしITERは7月、初期運転(ファーストプラズマ)が2025年から9年遅れの34年に、本格的な核融合運転への移行も35年から4年延期の39年という見通しが示されました。QSTによると、ダイバータの開発計画にはあまり影響はないものの、使用するまでの保全管理が必要になります。 (増井のぞみ)


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