台風10号が近づく8月下旬、西日本の地方裁判所で「不同意性交等罪」に問われている男の裁判が始まった。被害者は中学生。自分の部屋で寝ている時に突然、一生涯消えることのない傷を負わされた。「許せることじゃないって分かりますか?」怒りに満ちた裁判官の声。ついたての向こうの被害者の母親の気配。「欲を止められなかったのが原因だと思います」淡々と語る男は当時20人以上の女性と不倫関係にあった。被害者はその中の1人の、娘だった。

中肉中背、ベージュのチノパンに紺色のTシャツ、マスクをつけた男は普通の30代の「優し気なお兄さん」に見えた。

ことし8月、地方裁判所で開かれた32歳の男の初公判。不倫関係にあった女性の家で、女性が寝ている隙と外出した隙の2回、娘の部屋に忍び込み16歳未満であることを知りながら口腔性交及び性交をした不同意性交等の罪に問われている。男は小さい声で「間違いないです」と起訴内容を認めた。

不倫相手の母親が寝ている隙に…

当時15歳だった未成年者であることを踏まえ、被害者を「A」さんと呼ぶこと、人定につながる話は法廷ではしないことが裁判官から説明された。

検察官は冒頭陳述で、Aに関する個人情報を避けながらも、立証しようとする男の犯行を明らかにしていった。

男は専門学校を卒業後「介護士」として働き始め23歳で結婚。事件当時妻子と生活していたが夫婦関係は悪く、2024年に入ってからだけでも20人~30人の女性と不倫していたと言う。その中の1人が、被害者となったAの母親だった。

男は母親との会話の中で、Aが15歳の中学3年生であることを知っていた。

男は不倫関係にあった母親の家に泊まったことし3月、母親が寝たのをみはからってAの部屋に行きキスをするなどしたが部屋の外で音がしたように思い、その時は連絡先を交換して母親のいる部屋に戻った。

その後母親が外出したタイミングで再びAの部屋に行き、服を脱がせてわいせつな行為に及んだ。避妊具はつけなかった。

事件後、Aの母親が男とのLINEのやりとりをみて不審に思ったことから犯行が発覚。男に電話をかけ問い詰めると「無理やりじゃない」などと言って謝罪もなかったと言う。

「内緒やからな」口止めしていた男

「不同意性交等罪」は2023年に新設された罪だ。強制性交等罪だったものを変更し、被害者が「同意しない意思を形成、表明、全う」することが難しい状態で性交等を行うこと、つまり“同意のない性的行為は犯罪”と明確化した。「相手が16歳未満」、「相手が13歳以上16歳未満で、行為者が5歳以上年長である」場合は、たとえ同意があっても罪が成立する。法定刑は5年以上の有期拘禁刑。

16歳未満だと性行為の意味や結果を理解できず同意する能力がないと考えられるため、そして年齢差が大きくなれば「対等な関係はあり得ない」とする心理学的・精神医学的知見から設けられた要件だ。今回の件でも、被告の男は大人の男性という社会的に優位な立場を踏まえながら、Aに対し犯行を口止めする圧力をかけていた。以下は母親が犯行に気づくきっかけとなったLINEのやりとり。

「おりこうにしてるか」
「内緒やからな」
「親にばれないように」

被告とAの年齢差は17歳。Aは突然大人の男性にされた行為を誰にも相談できなかったと話している。

「母親が友達を家に連れてきた。服を脱がされ触られた。大人の男性に言われたことは断りにくかった。相談しようとしても恥ずかしくて誰にも相談できなかった。でも母親が気づいてくれた」(冒頭陳述より)

不倫相手20人以上…なぜAを襲ったのか?

被告の男と被害者らは「解決金300万円」の支払いと互いに接触しないこと、口外しないことを取り決め示談したという。この解決金を支払ったのは被告の男の両親だったことも法廷で明らかにされた。

被告側の情状証人として出廷した男の父親。「難聴」だという父親は身を乗り出しながら一所懸命質問に耳を澄ませ答えていた。

自分は船乗りで、3ヵ月海に出て1カ月休むという生活を送っていること。釈放された暁には妻と2人で生活している家に引き取り、携帯にGPSをつけてでも自分が監督していこうと思っていることなどを話した。被告は下を向いて動かない。

(弁護士)
解決金300万円は誰が払ったんですか?
(父親)
ー夫婦のお金で払いました。生命保険を解約して払いました。

息子さんは子供に対して性的な興味があったと思いますか?
ーないと思います。

女性関係の奔放さは気づいていましたか?
ー頻繁にSNSとかマッチングアプリでやり取りした女の子と会ってたみたいなのでそういう異常なのがあるのかなと…

いま本人に伝えたいことは?
ー馬鹿なことをせんように…

男は2024年に入ってからだけでも、20人~30人の女性と不倫関係にあったという。そして何度かの質問で小児愛者ではないと明確にこたえた。ではなんで中学生を傷つけたのか?被告人質問ではその点に質問が集中した。

(弁護士)
A子さんが15歳と知っていた?
(被告)
ーはい

15歳だと同意があってもダメだと分かっていた?
ー詳しいことは分からなかったですけど、やったらダメだということは分かっていました。

犯罪だと分かってて止められなかった?
ーそうですね

なぜ?
ー…自分の…欲の強さが関係してるのかなと思います。

なぜ同意があってもダメか分かる?
ー善悪の判断とか…その後に何が起こるリスクとか対応とか考えられないから年齢的にダメなんじゃないか…

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