顔に血管の塊ができる難病をもつ富山県南砺市の河除静香さん。つらい経験や悩みを乗り越え自らを題材にした一人芝居を演じ、多くの人に思いを伝えていますが、そんな彼女がいま、新たな夢に挑戦しています。

「やーあ!武田さん、おめでとーう!ありがとうございます」

富山県砺波市で活動している「劇団すばる」。あす31日幕開けの舞台でデビューする新人がいます。

「今までなんとなくうまく物事が運んで、いい彼女もできて、何も不満もないですし…」

「ふま、んで下がる?不満」

河除静香(かわよけ・しずか)さん、49歳。

河除さん「超難しいです。なにせ新米なので。はい。笑」

そう話す河除さんですがー

「誰だ!…俺は、悪魔だ!」

演技においては、キャリア10年のベテランです。

「私のような見た目の者にとって、この世は生きづらい」

河除さんはこれまで、自らを題材にした自作の一人芝居を演じてきました。

「私には人として生きる権利すらないというのか、私は人間ではないのか!」

河除さんは「顔面動静脈奇形」という先天性の難病で、生まれつき鼻の奥に毛細血管が絡まってできた塊があり手術を繰り返してきました。

幼い頃のあだ名は「アヒルのガーコ」。

河除さん「保育園のときは仲間外れとかも多かったし、いじめで自分が死にたいと思ったことはないけど、とにかく相手が憎くて、ほんとに1日1日乗り越えて耐えるしかない。この感情は誰にも言えなかった」

そんな河除さんは25歳のとき、一人の男性の言葉で人生が変わります。

講演 河除さん「ジロジロみられてつらいなら、俺が着ぐるみを着て隣を歩く」「とてもうれしかったです」

同じ職場で出会った悟さんと結婚。ことしで結婚23年目です。

夫・悟さん「見た目いうか、外見自体はそんな気にはならなかった。あぁこういう病気もあるんだぁって」

見た目を全く気にしない悟さんに、ありのままでいられたという河除さん。自身の体験をもとに「見た目問題」を考える機会をつくってきました。

主人公「私の心は、いまとても晴れやかだ」

河除さんは去年、砺波市で50年以上続く、劇団すばるの門をたたき、集団での演技に挑戦しています。

「1回ちょっと戸惑ってから、この握るっていう動作を見せたい。お客さんに」

演目は人生の岐路に立つ3姉妹を軸にした群像劇。

「なんで結婚しないわけ?なにをとろとろやっちゃってんのよ」(河除さん)「だから、この前話したじゃないすか。自分でもよく分からないって」

河除さんは主人公の恋人役、30代のサラリーマン男性を演じます。

河除さん「夫の靴です。普段から履き慣れておこうかと思って」

やはり一人芝居とは勝手が違うようで。

「ちょっと奥さんの写真、見ていいっすか?」「いいわけねぇだろ」(河除さん)「いいじゃないっすか」

演出の女性「ポンポンポンポーンっていう強弱とか波とかをつけて、スピードのバランスが(悪い)。もっとポンポンポーンっていったほうがいい」

今までにはなかった相手とのかけあい。セリフの間やテンポに苦労しているようです。

河除さん「一人でやるのとは全然違う。結構うまいとか言われて、天狗になっとったがですよ。自分がいかに下手くそかというのをここに来て分かりました。しゅん…って感じ」

そんな河除さんの心配をよそに、演出担当は。

演出担当・つむぎさん「男の役で、かっこいい役っていう役どころなんだけど、熱意っていうか、容姿とかそういうの関係なく、ちゃんとこの役を考えてやってくれるなっていうのがすごい伝わってきたんで、もう任せようって」

「あ、空っすね。すいませーん、おかわりくださーい!お願いしまーす」

河除さん「この歳になって、部活やってるみたいな感じです。あははは」

本番を2週間後に控え、この日は自宅で衣装合わせ。スーツは、息子さんに借りました。

河除さん「そのために7キロ痩せました。笑」

30代男性になりきるべく、ウィッグも購入したそうですがー

河除さん「え、被るがですか!?」(装着しに洗面所へ)

悟さん「(Q.楽しそうに劇団されてますよね)忙しくしとらんなんあかんような性分ながで、いま…」

河除さん「このウィッグ、だめやわ!」「ちょっと違うよ!?なんのコント?みたいな。笑」「(橋本:思ってたのと)違う」「なんか違うよね…」

悟さん「ちょっとギャンブル依存症になりかかっとる夢追い人みたいな。笑」

河除さん「要検討」

そんな河除さん。劇団の舞台に臨む上で、気にしていたことがあります。

河除さん「一番怖いなと思ったのが、私が出ることによって、すばるの芝居が壊れてしまうんじゃないかっていうのが、それだけは嫌だなって思ってて…」

「マスクを外して」舞台に立っていいのかという問題でした。

河除さん「今までの一人芝居は、わりと受け入れ態勢が整った中での芝居みたいなところがあったので…」

この日の練習後。マスクについてメンバーはどう考えているのかー。

演出担当・つむぎさん「私から見ればいまの演技であれば、そのままでも十分対応できる、お客さまもご納得いただけるという判断をしてますので。私としてはマスクなしで、そのままの顔で出演してもらう意向となりますので、皆さんご対応のほどよろしくお願いいたします」

この日以降も、何度も話し合いを重ね、河除さんのマスクなしでの出演が決まりました。

河除さん「私が思った以上に、みんな深く考えてくれるんですよ。それがすごく画期的やったというか。自分一人でやっていたステージとは違うステージだなって思ったりもします。見た目問題に関しても」

自分を受け入れてくれた仲間とともにいよいよあす、初めての舞台に挑みます。

河除さん「かっこよく演じたいですね。…私自身はかっこよくないかもしれないけど、でもかっこよく見えたよっていうふうに言ってもらえるような演技をしたいです」

河除さんはこれまで「自分が人前に立ってはいけない」「人に迷惑をかけてはいけない」潜在的な意識から、やりたいことを我慢していた節があったといいます。

河除さんの初舞台・劇団すばるの第60回公演は、8月31日と9月1日、富山県の砺波市文化会館で上演されます。

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