埼玉県川口市周辺で暮らすクルド人に向けたヘイトスピーチを巡り、日弁連が26日夜、東京都内で緊急集会を開いた。オンラインを含めて約350人が傍聴。クルド人や支援者らが登壇し、現状報告した。川口でヘイトスピーチが深刻化する中、現場で立ち向かう人たちは何を訴えたのか。(森本智之)

◆ユーチューブにアップされる動画を信じ…

 「本当に気分が悪くなるメールが大量に届きます」  支援団体「在日クルド人と共に」代表の温井立央氏は交流サイト(SNS)で暴力や殺りくをあおるような投稿が増えるに従って、事務所への嫌がらせも増えている状況を紹介した。

日弁連の緊急集会でヘイトの現状を報告した登壇者ら=26日、東京都内で

 そのどれもが埼玉県外から。「電話してきた人に問い合わせると、クルド人に何かされたわけでもなく、川口に来たこともない。『ユーチューブで見たから』とネットを信じ込んでやっている」と話した。

◆「無自覚な差別者を巻き込んでいる」

 外国人差別の問題に詳しいノンフィクションライターの安田浩一氏は「クルド人は埼玉に30年以上暮らし、市民社会の一員として問題なく生活してきた。ここまで露骨な差別はこの1年で急に起きた」と語る。  「これまで中国人や在日コリアンを差別していた連中が、クルド人を敵に選んだ。ネットでデマをまき散らし、無自覚な差別者を巻き込んでいる」とヘイトが拡散される構造を分析。川口市役所にも、デマを信じた人たちからの「クルド人を追いだせ」といった電話が相次いでいるという。

日の丸を振ってデモする人たちに対し、差別反対を訴える男性(手前)ら=4月28日、埼玉県蕨市で

 クルド人が暮らしたり仕事したりする場所を訪れてスマホで撮影し、「犯罪者」のレッテルを貼って動画投稿する人もいるという。「いま多くのクルド人はスマホを恐れている。差別者は『クルド人怖い』とあおるが、本当に怖がっているのはクルド人の方だ」と訴えた。  クルド人団体「日本クルド文化協会」のチカン・ワッカス氏も「小さなトラブルはあるが、ネットの情報はほとんどデマだ」と述べた。

◆トルコ政府によるテロリスト認定も影

 トルコ政府が昨秋、同協会と幹部を「テロ組織支援者」と名指しし、ヘイトが助長される結果となった。  クルド難民弁護団の大橋毅弁護士は英国や米国の報告書を基に、トルコでは2020年に約6500人がテロ防止法で訴追され、20万人以上が捜査を受けたと説明した。  「政権は、政敵であるクルド人政党の支持者を弾圧するためにテロリスト認定している。クルド人への政策について政府と違う立場をフェイスブックに投稿しただけで、トルコで訴追されたケースもある」  典型的なヘイトスピーチに「クルド人は不法滞在だから出て行け」といった内容があるが、「統計はないが、在留資格を持っている人は多い」とも反論した。

◆「川崎でできたことは、埼玉でもできる」

 ヘイト問題に取り組んできた師岡康子弁護士は「ヘイトを止める一番の責任は国と地方自治体にある」と解説。16年にヘイトスピーチ解消法が施行されたが、罰則がないことなどから、実効性に課題があると訴えた。  師岡氏は、日本で初めてヘイトスピーチに対する刑事罰を盛り込んだ川崎市の条例を紹介し、「川崎にならい、実効性のある条例をつくることが緊急に求められている。川崎では研究者、当事者、市民、さまざまな方が協力して実現できた。埼玉でも必ずできる」と提言した。  その川崎市に事務所を置く神原元(はじめ)弁護士は「埼玉の状況についてきょう初めて知ったことも多い。弁護士に何ができるのか、埼玉の皆さんと情報交換する場を作りたい」と述べた。 

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