超電導送電の実証実験をする富田優さん。左は液体窒素の冷却装置=静岡県伊豆の国市で

 鉄道総合技術研究所(東京都国分寺市)の富田優部長らは、超電導の線材を用いて、電車を走らせる仕組みを独自に開発しました。今春から伊豆箱根鉄道駿豆線(静岡県)の大仁(おおひと)駅付近で、世界初の営業線運用検証を始めています。夏の高温下でも問題は発生していないといいます。  電車は普通、パンタグラフを通じて「トロリー線」から電力を得ます。トロリー線に電力を供給するのが「き電線」。たいていトロリー線と並行して張られています。超電導が導入されるのは「き電線」です。  富田さんらは、銅酸化物系の超電導物質を用い、約100メートルの「超電導き電ケーブル」を作製しました。中はマイナス196度の液体窒素が循環し、低温を保ちます。今回の検証では、このケーブルがき電線として使われています。  普通の電線では、抵抗を受けて電気エネルギーが熱に変わってしまい、送電ロスが生じます。とくに大電流を流すき電線では損失が大きくなります。超電導は抵抗がゼロになるので、損失なく電気を送ることができます。  「省エネに加え、変電所を減らす効果も」と、富田さんは利点を説明します。「電車の本数が多い大都市圏では、電圧降下を防ぐため、2~3キロおきに変電所が設けられています。規模も大きく鉄道会社の負担が重い。超電導により設備を省くことができます」  運用コストは高くないそうです。ケーブルには真空層があって断熱されています。冷却装置は必要ですが液体窒素を補充する必要はなく、ケーブル内を循環して、超電導状態を維持します。「次の目標は数百メートル。課題を把握しながら距離を延ばし、同時に素材の開発も進めています」と、富田さんは話しています。 (吉田薫)


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