惹かれあって結ばれた松浦慶太さん(39)と藤山裕太郎さん(39)。LGBTQ自認者に対する差別と、自身の中の葛藤に苦しみながら生きてきた2人が直面している《住民票続柄》問題を見つめるシリーズ最終回。
女っ気がなかった兄
「話がある」ー藤山裕太郎さんの弟・雄大さん(33)が兄からカミングアウトを受けたのは去年5月のことだった。呼び出した兄がなかなか話を切り出さない姿に、「カミングアウトだ…」と思った。兄のいない所で「もしかしたら男性が好きなのかもしれないね」と家族で話をしていた。
藤山 裕太郎さん:
「付き合っている人がいるって言ってたんだけど、男の人なんよね…」
弟・雄大さん:
「なるほどね、いいんじゃない」
弟が流した悔し涙
兄の告白に、雄大さんはできるだけ「普通に」応じた。しかしその後、既に結婚していること、結婚式も挙げたこと、家族に迷惑をかけたくなくて言い出せなかったことを聞いて涙がこぼれた。悔し涙だった。
雄大さん:
「もっと早く話を聞いていたら、みんなで結婚式に駆け付けたのに」
家族に心配をかけまいと、男性を愛した事実を隠した兄。その優しさが、兄自身を苦しめていた。家族仲が良かった分だけ言い出せず、兄が苦しみ続けてきたことを思うと胸が締め付けられた。自分が想像していたより、何倍も何十倍も、兄の苦しみは深いことを初めて知った。
全国から寄せられる賛同と批判
その後、藤山さんと松浦さんのカップルはカミングアウトを受け入れてくれた藤山さん家族が住む長崎県に移住。移住先の大村市は「パートナーシップ宣誓制度」を導入して性的マイノリティへの理解促進に取り組んでいる。自治体の裁量の範囲内である《住民票》には、2人の希望通り「世帯主」・「夫(未届)」と記して交付した。
異性の事実婚カップルと同様の記載扱いは全国から注目を集め、大村市のもとには、2人が会見を行った5月28日~7月17日までの間に、全国から58件の声が寄せられた。いつもは1日1件あるかないかだというから異例の多さだ。
「いいことをした」「全国に広がって欲しい」ー賛成や応援する声
「同性婚はやっぱりおかしい」ー反対の声。
SNSなどでも様々なコメントが飛び交った。
「気持ち悪い」・「受け入れられない」・「理解を強要するな」
「幸せなら良い」・「多様性を認めるべき」・「尊重したい」
逃げないーそう決めた
松浦さんは自身の心を守るために、これまでSNSやネットのコメント欄にはあまり目を向けないようにしてきた。しかし今回は意を決して目を通した。辛らつな言葉に、心が押しつぶされる。一方で想像していたよりも賛成や応援の声が多かったことに驚いた。社会の関心の高さも感じた。
松浦 慶太さん:
「大きな事象が自分たちのところで起こったんだと改めて思った。自分たちのことだけでなく、日本全体に関わること」
総務省の見解
「夫(未届)」の住民票が交付されて2か月後、総務省は大村市に対し、「実務上の支障をきたすおそれがある」との見解を伝えてきた。
松本総務大臣(2024年7月9日会見):
「各種の社会保障の面では法律上の夫婦と同じ取り扱いを受けている事実婚の方々について『夫(未届)』『妻(未届)』という続柄が用いられてきた」「事実婚の方々の続柄と、今の段階では受けていない方々の続柄を同一にいたしますと、住民票の写しの続柄のみで、例えば各種社会保障の窓口などで適用の可否を判断することができなくなる」
つまり、異性カップルと同性カップルは「社会保障」の面で同じ権利が認められていないのに、表記を同じにしたらその区別がつかなくなる、というのが総務省の見解だ。
司法でも分かれる判断
憲法24条2項は「婚姻は両性の合意のみに基いて成立する」と規定している。ことし3月、札幌高裁は同性間の結婚について「異性間の場合と同じ程度に保障していると考えるのが相当である」とし、全国の高裁では初の「違憲」判断を示した。
同性婚をめぐっては全国5都市で同様の裁判が行われ、判断が分かれている。
【憲法14条または24条に対して】
・札幌地裁:違憲(14条)札幌高裁:違憲(14条、24条1項・2項)
・東京地裁1次・2次:違憲状態(24条2項)
・名古屋地裁:違憲(14条、24条2項)
・大阪地裁:合憲
・福岡地裁:違憲状態(24条2項)
大村市は現時点で「変えない」
大村市は現時点で、ふたりに交付した住民票を変更する予定はない、としている。
社会保障適用の可否は「住民票だけで判断するものではない」として、「『夫(未届)』の表記でどのような実務上の支障があるのか?」総務省に再質問している。7月末時点で総務省からの回答はない。
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