動物の毛づくろいを意味する「グルーミング」。性犯罪において、子どもや若者を手なずけて性的行為を要求する行為も「グルーミング」と呼ばれています。去年の刑法改正で、わいせつ目的で16歳未満の子どもに面会を求める「わいせつ目的面会要求罪」が新設。いわゆる「グルーミング」が処罰対象となり、注目が高まっています。

この「グルーミング」をテーマにしたシンポジウムが、7月13日、富山市で開かれ、これまで3000人以上の性犯罪者の治療に関わっている大船榎本クリニック(神奈川県)の精神保健福祉部長・斉藤章佳さんが講演を行いました。

富山市内で講演する斉藤章佳さん
グルーミングをテーマに開催されたシンポジウム(7月13日)

シンポジウムは、子どもへの暴力根絶に取り組む団体「富山CAP」などが開きました。

斉藤さんは「加害者側がこの世界をどう見ているのかを知ることが、実は性被害を防ぐ意味で重要な視点」だとして、加害者臨床から得た知見に基づいて講演を行っています。

一般的に、子どもに性的な関心をもつ「小児性愛障害」は、男性で人口の5%、女性では1~3%。斉藤さんが運営している小児性愛障害の人たち限定のグループセッションでは、性加害の欲求の根本を性欲と答えた人は一人もいなかったということです。

斉藤章佳さん「ゲームをする感覚とか、支配欲とか、達成感とか、レジャー感覚で『きょう何が釣れるかな』っていう感覚だったりとか」

斉藤さんは「彼らは交番の前では行動化しません。被害者、場所、時間帯、状況を意識的に選んでいます。つまり、彼らは性欲をしっかりコントロールしているんです」と指摘します。

性犯罪は決して衝動的に行われるのではなく、目的を達成するために計画的に行われるといいます。

性加害を達成するため周到に行われるのが、子どもを手なずける「グルーミング」です。斉藤さんは「加害者の戦略は優しさ」だと主張します。

自分を正当化していく“加害者構文”…

斉藤章佳さん「(加害者は)『おはよう』から始まって『おやすみ』まで、徹底的に子どもに寄り添います。メンタルに問題を抱えている、いわゆる弱っている子どもを見つける嗅覚は本当に優れていて、その子にとっての良きカウンセラーになっていきます。受容、共感、傾聴を巧みに使って、子どものことを絶対に否定しません。子どもにとっては、初めて自分のことを受け入れてくれた大人という位置づけになっていきます」

斉藤さんが知る加害者は「5年ぐらいかけてずっとラインとかで毎日やりとりしながら、実際に性加害に及んだのは被害女児が小5の時」でした。

子どもに性加害を行う教師のケースでは、多くは児童や生徒に人気があり、同僚や上司、保護者からも信頼されているといいます。

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加害者は児童を取り巻く環境も手なずけていき、さらに自分自身の認知もグルーミング(セルフ・グルーミング)して性加害行為を正当化していくということです。

▼これは性教育なんだよ
▼優しく教えてあげるから犯罪じゃないんだよ
▼この子もいずれセックスを経験する時が来る。その前に僕が教えてあげるんだ

斉藤さんはこれらを“加害者構文”と呼んでいます。「加害者自身が自分の行為を正当化するために自分自身を手なずけていきます。グルーミングの手口にはこうした“加害者構文"がふんだんに盛り込まれています」と指摘します。

接点はスマートフォン…7割が子どもから

斉藤章佳さん「お金を渡す、ゲームのやり方を教えてあげるとか。ほめちぎる、君は特別だと特別感を演出するとか、そうやって加害者は子どもたちの承認欲求を巧みに転がして、手なずけていきます」

その上で、性的意図を隠しながら、加害者は子どもたちに接近していきます。

警察庁のまとめによりますと、去年、18歳未満が性被害に遭った事件全体の摘発件数は全国で4418件(前年比274件増)。SNSがきっかけで被害に遭った子どもは1665人で、特に不同意性交が96人と前年より2倍近く増えています。加害者と被害児童の接点はスマートフォンがほとんどで、最初の投稿は74.2%が子ども側からでした。

警察庁が挙げた検挙事例には、看護師の男(32歳)がオンラインゲームで知り合った男子中学生(13歳)にゲーム機を供与して車両内でわいせつな行為をしたり、無職の男(37歳)が仮想空間でアバターを使って女子児童(10歳)にわいせつな画像を撮影させて送らせたりした事案もありました。

寝たふりが精いっぱい…ひたすら耐えていた

講演の後、旧ジャニーズ事務所の創業者・故ジャニー喜多川氏から性加害を受けたことを告発した中村一也(37)さんが登壇し、斉藤さんと性被害やグルーミングについて対談しました。

元ジャニーズJr.の中村さんが被害を受けたのは15歳の時。当時の中村さんにとってジャニー喜多川氏は「嫌われると切られる、絶対的な存在」だったといいます。

被害を受けたのは、中村さんがタッキー&翼のデビューコンサートで東京ドームの舞台に立った夜。

中村一也(37)さん「高台から見るペンライトの景色。5万人のペンライトって本当にきれいなんですよ。メインでも何でもないんですけど、本当気持ちいい。それをあじあわされて…」

夢のような景色を見たその真夜中に、ジャニー氏は足元から忍び寄ってきました。

中村一也(37)さん「体も硬直してですね、寝たふりが精いっぱいで…。抵抗するとかも考えなかったですし、何よりも嫌われたらっていうところもあったんで、そのまま事が終わるのをひたすら耐えていたわけなんですけど」

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