私たちテレビは、いつの間にかわかった顔をしてしまっていないか

この番組は私たちスタッフが、テレビの世界で働きながら抱いていた違和感を元に作った番組です。その違和感とは、「SDGsの実現」や「多様性の尊重」など、日々変化していく社会の新たな常識について取り上げるとき、私たちを含むテレビは、なぜかわかった顔をして、わかった側に立って、ものを伝えてしまっているのではないかということです。

テレビ局で働く私たち自身は、ちゃんとわかって、腑に落ちて伝えられているのだろうか―。

そこで、この番組ではできる限り等身大であることを心がけ、問題の一歩目一段目だけを丁寧に扱うことを大切にしました。テーマとしてとりあげたのは「生理」と「働きやすさ」。「こうするべき、こうあるべき」ではなく、「私たち自身もわかっていない。だから一緒に考えたい。」というメッセージを込めています。

この記事は、番組の一部として実施したRKKの社内研修(生理痛体験研修)の様子を書き起こしたものです。

この研修を受けたからと言って一気に何か解決できたわけでも、大きな変化を起こせたわけでもありません。でも、これまで思っていたけど話せなかったことを話したり、異なる考えや価値観を持つ人同士が一緒に働くにはどうすればいいのか考えたりするきっかけになりました。読んでみていただけたら幸いです。(番組プロデューサー)

(初出:2024年1月22日)

※「今日、解決はしないけど。」は8月11日(日)15時半からRKKテレビで再放送、また12日(月)ひる12時からTVerで配信します。(2024/8/26 12:00まで)

「今日、解決はしない」ことをテーマに

「女性の活躍推進」や「健康経営」などの観点や、またここ数年「生理の貧困」という言葉が話題になり、学校や公共施設に生理用品が設置されるなど、「生理」に対する社会の注目は高まっています。

しかし、その一方で生理についてはタブーと感じる人がいたり、正しい知識や理解がなかったり、女性同士でも分かり合えているとは限らなかったり…話題にするのが難しい問題です。

実はRKKでも、おそらく他の多くの会社と同じように「生理」について考えたり話したりする機会はありませんでした。今回、開局70周年記念特番でテーマの一つとして「生理」を扱うことになり、RKK社内で「生理痛体験研修」を実施することになりました。

開局以来初めて「生理」について考えてみた

研修に参加したのは、RKKで働く20代から60代までの男女20人。会社で生理の話を聞くのは初めてのことで、皆いつになく緊張していました。

研修を行うのは、大学教授などの研究者が集まって起業した大阪のベンチャー企業、大阪ヒートクール株式会社。

女子学生の発案で開発した生理痛を疑似体験できる装置を使って、全国で研修を行っています。

生理痛体験に使用する装置は、電極パッドを下腹部に貼り、電気で腹筋を刺激することで、生理痛を「弱」「中」「強」と段階的に疑似体験できるというものです。

田名網駿一アナウンサーが体験します。

体験スタッフ「まず弱から。」

田名網アナ「おお…おお!ダメだ 俺『弱』でもけっこうきてます」

そこからレベルを上げていくと…

悶絶する男性陣と反応が薄めの女性陣

次に生理痛体験の装置を【レベル 中】に。すると…

田名網アナ「ああ!うお…ダメだ。今電極パッドを貼ってある所以外にも、上の所にも来るような気がします」

そして”レベル 強”では…

田名網「ああ!ああ!ちょっとちょっと!痛い痛い!」

田名網アナは「強」に耐えきれず、体験装置を落下させてしまいました。

しかし、大阪ヒートクールによると、女子大学生にこの装置を使ってもらったところ、約8割の人が自分の生理痛は「強」と同じくらいと答えたそうです。

田名網「みぞおちがへこむような…」

続いて、社長も体験。

(レベル 弱)社長「来た来た来た来た」

田名網アナよりも痛みに強いのか、リアクションが薄めの社長。

しかし…

(レベル 強)社長「…あ、これ痛い…」

社長「尿管結石になったことがあるんですけど、そのときに膀胱が破裂するかと思ったのよ。それに近いな」

他の社員も体験。

男性「弱でこれですか?社長やせ我慢してたんじゃないかな?めっちゃ痛い。痛いっていうか苦しい」

一方女性たちは…

(レベル 中)女性たち「…」

研修スタッフ「余裕がありますか?大体女性の方こうなるんですよね。さっきの男性陣とはだいぶ違う」

女性①「すごい痛いときに比べるとそんなでもない」

(レベル 強)
女性①「あーこういう感じだと思います」
女性②「確かに。この下腹部がずーんとなる感じ」
女性①「これくらいが一番痛い時。もっとかな?」
女性②「私、もうちょっと痛い気がします。これよりも」

アナウンス部長(男)も体験しました。

(レベル 強)アナウンス部長「今、生放送のラジオ番組を結構担当してるんですけど…おう!…これ放送できませんね」

体験後に参加者に感想を聞いてみると…。

報道制作局長(男)「すごく鈍痛というか。この痛みが月に1回、1週間ぐらいやってくると思うだけで、なんか憂鬱なのかなっていう気はしました」

ラジオキャスター(女)「私はお腹が痛いよりも腰が痛い方が結構つらいので、同じ女性でもやっぱ経験してる痛みが違うんだなって」

アナウンス部長「知っておいてあげたい気がしたね。あんまり聞けないし、部下からも報告とかないだろうけど」

アナウンス部長「ディレクターも後で体験するの?」

ディレクター「はい」

アナウンス部長「じゃあ今度教えて。私いつも『強』ぐらいとか。あ、こういう『教えて』っていうのもダメなのかな?大丈夫だよね?ダメか。ええ…もう難しいな」

頭痛やアレルギーなど、生理痛以外も含めた痛みを考える

体験の後は、生理痛以外も含めた様々な痛み(頭痛やアレルギーなど)について、職場ではどんなふうに助け合えるか考えるワークショップが行われました。

生理痛について考えたグループは…。

男性①「突然のタイミングで来るのかどうかとか、人によってはわからないところがあって…」

女性「大体その周期で決まってるから、この人は大体この日ぐらいに来るってわかるんですけど、でもそれをオープンにすると逆にちょっとまた問題が出てくる」

男性①「言うことには、なかなか(抵抗は)やっぱあるんでしょう?我々としては言ってもらうことに対して何ら思うことはないような気はしてるんですけど」

男性②「我々の感度がちょっと足りないところがある?」

男性③「セクハラの問題もありますからね。理想と現実の境目」

生理への理解を少し深め合えた一方で、コミュニケーションについてはやはり難しい点が残りました。

テレビ制作部長(男)「おもんぱかったことをどこまで口にしていいのか。どう表現すればいいのかっていう非常に難しいなっていうのは思いました。女性の方も、逆に言いにくいっていうバリアを皆さん自分でお作りになってる面もあるのかなって。電極と電極が反発しているみたいな感じでコミュニケーションが難しい」

研修の後、参加者に答えてもらったアンケートでは…

・生理について男性に知ってもらうことは『女性は実は大変なんだからわかってよね』という押し付けではなく、生理痛に限らず、他の人が抱えているかもしれない様々な痛みや苦しみについて考えることに繋がるんじゃないかと思った。

・痛みを体験して、仕事への集中が難しそうだと思った。今後は家族や周囲を気遣いたい。ちなみに今日までは何も思っていなかった。

・中学生くらいの頃『生理って言えば、プールの授業を休めるから生理じゃないけど休もう』というような女子の会話を聞いたことがあります。『そういう積み重ねで、女性自身が生理に対する信頼を失う行動や言動をとることは避けましょう』というような内容の部分も(研修の中に)少しあってもいいのかなと思いました。

などの感想があり、スタジオでは「これまで生理について知る機会のなかった人にもいい機会になったのでは」という意見や「生理を理由にサボっているというような誤解をされないように女性も気をつけないといけない」という意見も出ました。

アンケートは「この研修に参加してよかった」という意見が多数だった一方で、実は、この研修の参加者をRKK内で募集したときには、20人の定員枠が簡単には埋まらなかったという事実もありました。

スタジオでは、こういう研修を「押し付けられている」と感じる男性も、「生理は女性だけの話にしておきたい」と考える女性もいるのではないかという議論になり、どうすればいいのか難しいという話になりました。

全国で研修を行っている大阪ヒートクールのスタッフはどう思う

研修後には、この生理痛体験研修で全国を回っている大阪ヒートクール代表取締役の伊庭野健造さんとブランドマネージャーの久保田千晶さんにお話しを伺いました。

久保田「自己開示っていうのがすごくポイントだと研修に回っていて思うんですよね。最初の座学では、恥ずかしがって聞いてる方もいらっしゃるんですが、ワークショップや体験をすると、おのずと自分のことを話すきっかけになって、自己開示する方が出てきます。そこから『私もなの』という声につながったり、チームで話して仲が深まるという部分があるなと感じるので、生理痛に限らず、色々な痛みや悩みなどを、仕事場でもちょっと出していけるようになったら嬉しいなと思っています」

伊庭野「やっぱり押し付けちゃ駄目だなっていうのをすごく思っていて。僕らの生理痛の体験も、痛みを体験してもらうのはある意味ちょっと押し付けてるなと思うところではあるんですけど『私が苦しいからわかってください』っていうだけではなくて、もしかしたら自分が苦しいと思ってるときに他の人は、他のことに苦しんでいるかもしれないとか、お互い本当に相手がどう考えてるんだろうってことを考え続けるのが大事だっていうのを伝えたいですね」

生理については様々な考え方や価値観があるため、一つの答えを出すことは難しいですが、RKKでは今後も生理について等身大に考えていきたいと思っています。

※RKK開局70周年記念特別番組 ななまるテレビ「今日、解決はしないけど。」とは…複雑化・多様化する社会の中で、実はまだ腑に落ちていないことや、ついていけていないこと…そんなもやもやについてRKKアナウンサーの田名網駿一と糸永有希が、ゲストを迎え、答えを出さずにただ話をする番組。

過去1年間に放送・配信された番組などから優れたものを表彰する「放送文化基金賞」エンターテインメント部門の「奨励賞」にこの番組が選ばれました。

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