東京海洋大の実験船「らいちょうN」。水素燃料電池とリチウムイオン2次電池だけで運航する=東京海洋大提供

 東京海洋大(東京都港区)の実験船「らいちょうN」が7月、水素燃料電池と蓄電池だけで運航できる燃料電池船として日本で初めて、船舶検査証書の交付を受けました。船舶検査証書は船舶安全法に基づくもので、車で言えば車検証に当たります。同大の大出剛特任教授(船舶海洋工学)は「実験レベルを超えて、実際に船を走らせる証書を手にした日本で最初の船。燃料電池船が普及できる門戸を開けた」と意義を強調します。  らいちょうNは、全長14メートルの12人乗りです。東京海洋大が2010年から研究開発してきた小型の電池推進船の3隻目です。電気で走ることから、漢字では「雷の鳥」と書く「らいちょう」とし、「N」はNext generation(ネクスト ジェネレーション)(次世代)の頭文字から取りました。  蓄電池のリチウムイオン2次電池に加えて、16年から燃料電池の搭載を始め出力を増やしていきました。22年から現行の出力60キロワット級の燃料電池を積んで運航しています。巡航速度では5時間で約80キロメートル走ります。  燃料電池は、水素と酸素を化学反応させて電気をつくります。電気をつくる時に水が出るだけで、温暖化ガスの一つ二酸化炭素(CO2)を出さないので、環境問題に大きく貢献できると期待されています。車ではすでに実用化していますが、船での導入は遅れていました。大出さんは「燃料である水素が漏れた時の制御面での安全対策を一番考慮した」と話します。水素を貯蔵するボンベは、漏れた水素を拡散して引火の危険性を低くするため、後部の風が当たる場所に設置しています。  さらに効率よい運航をするため、燃料電池の発電とリチウムイオン2次電池の消費のバランスを制御するなど、燃料電池船の運航制御の研究もしています。もし燃料電池が止まっても、主電源のリチウムイオン2次電池で走行でき、海上で風や波を受けて漂流するという危険な状態を避けられます。  らいちょうNでの成果は、造船所や運航会社が燃料電池船を建造したり、運航計画を検討したりする際に役立ちます。身近な例では、来年の大阪・関西万博で運航する燃料電池船の建造と運航にこの成果を反映しています。  大出さんは、今後のらいちょうNの運航計画について「海水温が上がると、燃料電池の出力が自動的に落ちることがある。夏場のデータが不足しているので、もっとデータを取りたい」と語ります。 (増井のぞみ)


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