計4棟のタワーマンションを建設する2つの再開発に揺れる東京・板橋のハッピーロード大山商店街。そのシンボルである長さ約560メートルの巨大アーケードの一部解体工事が4月から始まった。すでに一部の屋根が取り外され、商店街は中心部で分断される形に。解体は、都道の整備と再開発に伴うためとされるが、都道の用地買収は難航し、完成のめどは立っていない。先んじてアーケードを解体する理由に乏しいように思えるが―。(岸本拓也)

商店街入り口(資料写真)

◆気付いたら屋根がなくなっていた

 「気付いたら屋根がなくなってて驚いた。毎日来てたけど、雨でぬれたら嫌だし、足が遠のくかも」  4月中旬、大山商店街を歩いていた販売業の女性(67)は骨組みがあらわになったアーケードの屋根部分を見上げた。  地元住民によると、屋根部分の取り外しが始まったのは4月9日深夜。近くに住む平川広美さん(65)は「夜中に電動カッターで屋根を切っている音やガシャーンという音が聞こえるようになった。この日から解体を始めるなんて説明はなかった」と話す。

◆先行工事は「断腸の思い」というけれど

 アーケードは1978年、商店街振興組合が集客の目玉に完成させた。だが、東京都が2015年に都市計画道路「補助第26号線」を整備することを決定。アーケードを所有する振興組合が、その整備に協力する形で、都道が横断する部分約180メートルの解体を決めた。今年4月からは「第1期」として、このうち68メートル分を9月末までに完全に撤去する。残る部分の解体時期は決まっていない。  都は25年度に都道の完成を目指すとするものの、立ち退きに反対する住民も多く、整備に必要な用地買収率は51%(昨年3月末時点)。予算執行率も3割に満たない。都道の完成が見通せない中で、一部商店主らが先行してアーケードを解体することに反発、今年3月に中止を求める仮処分を東京地裁に申し立てた。

4月から始まったアーケードの解体に反対する署名活動をするコモディイイダの飯田武男社長(左)=17日、東京都板橋区で

 商店主らは4月中旬、反対の署名活動を行い、商店街でスーパーを経営する「コモディイイダ」の飯田武男社長(84)も参加。「いつ道路ができるか分からないのに、先にアーケードを壊して商店街の魅力を失うことはマイナスしかない」と強調した。振興組合は3月に商店主向けの説明会を開いたが、「なぜ先行して解体するのか、具体的な説明はなかった」と憤慨する。  改めて振興組合に解体理由を尋ねると、街づくり担当の男性は「道路事業の計画は令和7年(25年)度となっており、こちらもその計画に合わせた。68メートル分を先行させたのは、クロスポイント地区の再開発事業の支障にもなるためだ。われわれとしても解体は断腸の思いだ」と話した。

◆再開発組合は「解体要望していない」

 クロスポイント地区とは、2棟のタワーマンション建設を軸とした再開発事業で、解体中の68メートル部分に面している。振興組合は再開発への影響も解体理由に挙げたが、クロスポイント再開発組合の担当者は「アーケードと再開発は別。解体しなくても再開発に問題はない。再開発組合が、アーケードの解体を要望したこともない」と否定した。  先行解体の理由は判然としないが、都道の整備が長期化する可能性は高そうだ。昨年11月の都の資料は「権利者が多く、用地折衝に時間を要している」と事業の難航を認める。21年に事業期間を5年先延ばしした経緯もあり、都は再延長を含めた検討を始めた。  飯田社長は「このままでは都道ができないのにアーケードだけが解体され、商店街が分断される。一日3万人が訪れるすばらしい商店街がダメになるのは明らか。何としても止めたい」と述べた。 

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