近所の川にもいるはず…ナゾの”古代魚”

”古代魚” は太古から姿を変えず今も生き残っている魚です。「生きた化石」とも呼ばれ、アフリカ沿岸で暮らす”シーラカンス”や、南米のアマゾン川にいる淡水魚”ピラルクー”や”カブトガニ”などが有名です。実は国内の河川でも、古代魚に出会うことがあるといいます。身近な魚の生態に詳しい富山県魚津水族館の学芸員、不破光大さんに聞きました。

魚津水族館 学芸員 不破光大さん「ヤツメウナギは古代魚で3億年以上前から姿を変えていないといわれています」

不破さんが教えてくれたのが、ヤツメウナギ科のスナヤツメと呼ばれる生き物です。眼の横に7つの鰓穴(えらあな)があり、この穴が眼のように見えることから、本当の眼とあわせて「八つ目(ヤツメ)」と呼ばれています。

スナヤツメには通常の魚とは全く違う特徴がたくさんあります。まず顎(あご)がなくて、口は吸盤型をしています。この通り水槽にぴったりとくっつくことができます。

さらに鼻の穴は一つだけ…、体に硬い骨はなく、やわらかい軟骨だけでできている生き物なんです。

こうした特徴から、スナヤツメは3億年以上も前から姿を変えていない「生きた化石」…古代魚とされています。

魚津水族館 学芸員 不破光大さん​「20センチぐらいと小さい…。鉛筆ぐらいしかないんですよ。太さも。だから鉛筆って思ってもらえたら大きさはわかりやすいですかね。ウロコもないので、ミミズっぽくも見えますね」

古代魚というと、海外に生息している遠い存在の生き物のように感じますが…このスナヤツメは、あなた家の近くの川にも生息しているかもしれない、“身近な古代魚”なんです。

魚津水族館 学芸員 不破光大さん「わりと富山県東部の湧き水地帯とかに出るんです。結構、身近にいる古代生物ですね。古代魚、珍しいですよね。近所にもこんなのがいるっていう。急に出会ったら、本当に怖いと思いますよ。なんじゃこれみたいな。本当にミミズとかおたまじゃくしとか、カエルみたいな感触です。皮膚感があるというか…気持ち悪い情報しか流していない…」

こんなユニークな姿ですが、意外に“きれい好き”。冷たくて清澄な水を好むというスナヤツメ。湧水が湧いているようなきれいな川に生息していて、富山県内では県東部の湧水地帯で出会うことがあるといいます。

不破さんが目撃!めったにない産卵シーン…

学芸員の不破さんは、水がきれいなことで知られる黒部川の河川敷にある富山県入善町の墓ノ木自然公園で、スナヤツメのめったに見られない特別な瞬間に一度だけ遭遇したことがあるといいます。

魚津水族館 学芸員 不破光大さん「産卵シーンはめったに見られない。出会えたらすごくラッキーです。石にくっついて集団で産卵するので…なんかまとまって、わらわらわらっと、たくさん集まっているような感じで。墓の木自然公園で見ました。」

不破さんが目撃したのは、10匹ぐらいのスナヤツメが、吸盤状の口で石にくっつきながら、産卵しているシーンです。実は、胸びれや腹びれを使って姿勢を保つ普通の魚と比べて、スナヤツメには背ビレと尾びれしかなく他の魚と比べてあまり泳ぎが得意ではないようです。そのため川の流れに流されないために活躍するのが吸盤型の口です。

魚津水族館 学芸員 不破光大さん「この口で石に吸いついて、産卵場所を作るんですよ。集団で集まってきて穴を掘って産卵場所を作る。吸盤はどっちかっていうと、寄生するんじゃなくて、石に吸いついたりする生活のために使っているんです」

一生のほとんどを砂の中で過ごし…外に出てきたら何も食べずに死んでしまう不思議な生態

身近な川にも生息している古代魚・スナヤツメですが、探してもなかなか見つけることのできないある生態を持っている生き物でもあります。

魚津水族館 学芸員 不破光大さん:「スナヤツメは一生、川で過ごす。海には下らない。大体3~4年くらい川にいるんですけどもうほぼ一生、砂の中。砂の中で生活しているので、出さなきゃ出てこないような。捕まえると姿が見えるんですけど、そのまま飼育しているとズボズボって入っていっちゃいます」

不破さんがみせてくれたのはアンモシーテス幼生と呼ばれるスナヤツメの幼生(赤ちゃん)です。

スナヤツメの幼生は眼がないのが特徴。おちょぼ口で、砂の中に蓄積した葉っぱや生き物の死骸から、養分にできるものだけを栄養にしながら、ずっと砂の中で暮らすといいます。 

魚津水族館 学芸員 不破光大さん:「3~4年、砂の中に隠れていて、ニュルニュルと出てくるのが、4年目の秋くらいですね。ちゃんと目がつくんですよ。変態して。秋に変態しちゃって、ひと冬を越してから繁殖する」

スナヤツメは幼生が、眼のついた成魚の姿になって、ようやく砂から出てくるのが4年目の秋頃。さらに成魚になってからは、餌を食べることはなく、ひと冬を越して春になると産卵して生涯を終えるのです。

幼生(赤ちゃん)のときは眼がなく砂の中で3~4年間暮らす
秋に成魚として出てくるも、冬を越えて春に産卵すると死んでしまう

幼生の3年間から4年間をずっと砂の中で暮らし、ようやく砂から出てきたと思ったら、何も食べることなく数か月で死んでしまうスナヤツメ。身近にいる古代魚ですが、生涯のほとんどの時間を、砂の中で暮らしているため、出会うのは簡単ではないかもしれません。

富山県の絶滅のおそれのある野生生物をまとめた”レッドデータブックとやま2013”によりますと、スナヤツメ(南方種)は生育環境の悪化により、生息地や個体数ともに減少しています。

河川の改修などで幼生の生育に適した砂や泥がある場所や、産卵に適した平瀬が減少していること、湧水が継続的に供給される環境が減ってきていること、生息水域への生活排水の流入や生活ゴミの廃棄による水質の悪化などが生存への脅威になっているようです。

また、環境省のレッドリスト2020では絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。

身近な古代魚を守るためにも、生き物が暮らしやすい環境について考えてみることが必要かもしれません。

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