4月は入学式の季節。ピカピカのランドセルを背負うお子さんの姿は、見ているだけで思わず笑みがこぼれます。そんなランドセルに、ひときわ強い思いを込めた“ある家族”を取材しました。

生きていたら高校生のお兄ちゃん 「物が二重に見える」小学1年生の時に“異変”

 兵庫県伊丹市に暮らす豊田さん一家。子どもは、椛(かえで)さん、椿(つばき)さん、丞(たすく)くんの3人姉弟、ではなく…3人には、生きていたら高校生の“お兄ちゃん”がいます。陽音(はると)くんです。6歳下の妹で長女の椛さんをとても可愛がる優しいお兄ちゃんでした。


randoseru2.jpg

 2014年4月に小学校に入学。赤色が大好きだった陽音くんは、黒地に赤い糸の刺繍が入ったランドセルを選びました。陽音くんの体に異変が起きたのは、2015年1月。学校に通い始めて9か月後でした。

 (母 豊田亜紀さん)「入院した前の日にお友達とゲームをしていて、『二重に見えるねん、ママ』と言うので、『あした学校から帰ったら眼科に行こう』と言っていたら、翌日に学校から電話がかかってきて、『様子がおかしいので、病院に行きましょうか』と。その次の日には歩けなくなって、一日一日の進行がすごく速かったです」


randoseru3.jpg

陽音くんを襲った難病「小児脳幹部グリオーマ」

 地元の病院からすぐ大きな病院に移り、「小児脳幹部グリオーマ」という重い脳腫瘍がわかりました。“1年”生きられる可能性は50%と告げられたそうです。

 脳幹は脳の真ん中にあります。とても小さな器官ですが、呼吸などをつかさどる重要な役割を担っていて、手術で取り除くことはできません。子どもの脳腫瘍は(年間あたり)100万人に20人が発症すると言われていて、なかでも脳幹部グリオーマは最も治療が難しい病気です。

 (大阪大学・脳神経外科 招へい教授 香川尚己医師)「(小児脳幹部グリオーマは)一般的にかなり浸潤性が強くて(病巣が)広がりやすい。急速に悪化しやすい病気の場合は、非常に悪性度が高くて予後が短い。有効な治療法は、放射線治療で一時的に増殖を止めることできますが、脳幹は手術による全摘が難しい場所なので、やはり放射線治療が中心です」

一時は回復し学校にも復帰 大好きなドッジボール大会にも参加

 陽音くんはすぐに放射線治療を始めました。

 (亜紀さん)「頭の中に“できもの”ができたからと(陽音くんに)伝えて、その“できもの”に『デビルっていう名前をつけて、やっつけよう』となって。放射線治療が終わってMRIの結果が出たあとに、『デビル、小さくなってた?』って必ず聞いてきました」

 放射線が効き、病状は一時回復し、歩けるようにもなっていました。学校にも復帰。クラスメイトに温かく迎えられました。病気がわかって半年後の7月には、大好きなドッジボール大会にも参加できました。試合に負けて悔し涙を流した陽音くん。亜紀さんは、治療中も成長している我が子の姿を実感したそうです。

陽音くんは「世界を病気いっぱいにする鬼を退治してくれている」

 しかし、再び病状が悪くなり入院。この時、亜紀さんのお腹には赤ちゃんがいて、陽音くんはノートにこんな言葉を残していました。

 『弟ができること』

 病気が進行し鉛筆をうまく握れなくなっていましたが、必死で書きました。それから2か月後、陽音くんは亡くなりました。8歳でした。


@12.jpg
 

 陽音くんが亡くなったのは、椛さんが2歳の時。後に産まれた椿さんも丞くんも、お兄ちゃんに会ったことはありませんが、3人にとって陽音くんは自分たちを守ってくれる大切な存在です。

 (椛さん 椿さん 丞くん)「(Qお兄ちゃんはどこにいる?)天国。世界を病気いっぱいにする鬼を退治してくれている」

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。