2年後の再建を目指して。着々と進む正殿の再建工事。「首里城の顔」とも称される唐破風も輪郭が見え始めています。壁面に施される彫刻、妻飾りの製作も同時並行で進められています。その舞台が。
北陸の富山県南砺市井波。およそ260年の歴史を持つ井波彫刻発祥の地で、およそ110の工房が軒を連ねる日本一の彫刻の街です。
「カンカンカン」
街の中心から離れた工房で今年4月ごろから職人とその弟子たち、7人がかりで唐破風妻飾りは製作されています。
職人たちを指揮するのは、井波彫刻師の砂田清定さん。国の重要文化財熊本の阿蘇神社の彫刻や平成の復元時に美福門の額などを手掛け、今回の抜擢につながりました。
▽井波彫刻師の砂田清定さん
「50年やってきたが(ここまで)大きい仕事をさせていただけるのは嬉しかったです。眠れなかったです」
砂田さんの真骨頂は人や動物をモチーフにした欄間彫刻など。限られた木材の厚みのなかで、高低差でメリハリをつけることで生命を吹き込みます。その技法を妻飾りにも応用。
▽井波彫刻師の砂田清定さん
「(木の厚みは)7センチ弱しかないので。彫刻をいかに盛り込めるかが技術ですね。高い部分は、ここがテッペンですね。この鼻の位置が高い方が、よりグッと迫ってくるものがある」
彫刻で最も大切な顔、その中心となる鼻は高く目立たせて、周囲は微妙に下げる。逆算の積み重ねが躍動感を生むといいます。
ただ井波彫刻の技をもってしても首里城独特の造形は未知の世界でした。
前の週、首里城の専門家が訪れ初めての彫刻の監修がありました。専門家から修正してほしいと指摘されたのが。
▽砂田さんの弟子・野原陽万里さん
「フラットに。あそこ半分以下に落してくれといわれているので。絵画を見ているような感覚で」
▽井波彫刻師永田幹生さん
「(高さは)ちょっとでいい感じだ」
▽井波彫刻師の砂田清定さん
「うーん」
弟子が書き留めた修正ポイントは、井波彫刻の常識とは全く異なるもの。
砂田さんたち井波彫刻の技法では下から見上げた際に、迫力が出るようメリハリをつけて彫ります。対する首里城は、立体感はなく平面的。その理由について、首里城の専門家は、「豊富に材料がないなかで生まれたものではないか」と指摘します。ただ平面ではありますが「龍の上の部分が左向き、下あごの部分が正面向き」といった構図の妙によって首里城の龍にも躍動感を出す工夫が施されているといいます。
妻飾りに求められるのは厚みのない木材をさらに薄く、それでいて十分な表現を込める技。
▽井波彫刻師の砂田清定さん
「これもちょっと(高さを)落して。勾配をもうちょっとねかしていい」
「丸みがあったら(いい)?」「あんまり。とにかくベタ(平ら)で」
首里城独特の造形にも、砂田さん、彫刻師50年の経験と井波伝統の技術で対応します。
▽井波彫刻師の砂田清定さん
「(専門家の)先生のいうことを、どう再現できるか。色んな知識も学びたいので。みんなの力で沖縄を完成させたい」
思いは、工房に集結した職人たちも同じです。
▽井波彫刻師・永田幹生さん
「富山に首里城の仕事が来るなんて画期的。実際に来てみてびっくりですね」
▽井波彫刻師の砂田清定さん
「(仕事上で)これからの励みにもなるし。いい仕事に巡り合ったと思っています」
▽砂田さんの弟子・野原陽万里さん
「光栄です。やっぱり怖さや慎重さは(普段の仕事の)倍ですね」
首里城の伝統様式と井波彫刻の技の交錯する工房で沖縄の文化に触れるのは職人だけではありません。
▽見学に来る地元の人たち
「あ、どうも!」「激励に参りました」
見学自由とあって地元の人の姿も。
▽井波彫刻師・酒井秀哲さん
「ここを通りかかったりした人も”ちょっと見せてもらえますか”と。喜んで見ていかれます」
「こんにちは。またお邪魔します」
中には沖縄出身者も。豊見城市出身で、結婚を機に夫の故郷である富山に移り住んだ林原美代子さんです。
▽林原美代子さん
「私は富山県に嫁いできて、もう雪見て涙で辛いなと思っていたけど、最後の最後でこうやって(見られて)。本当にありがとうございます」
去年、母親を亡くしたという林原さん。今年4月の1回忌で沖縄に戻ったのを区切りに、「沖縄への帰郷は最後にしよう」と決めていたといいます。
▽林原美代子さん
「だんだんと年をとるし。(母親が)亡くなったら、なんか(沖縄と)縁が遠くなるような気がして。富山に落ち着くのかなと思いましたね」
見納めだと思い訪れた首里城の再建現場で譲り受けたカンナくずは、母が眠る沖縄と自身を繋ぐお守りに。そうしたなか、地元の新聞で砂田さんの工房を知りました。
「すごいそれはビックリしましたね。こんなことがあるのか!と思った」(Q:新聞を見てすぐに駆け付けた?)「そうです」(Q:工房で何を感じた?)「やっぱり私は沖縄の人だなと思ったね」
▽井波彫刻師の砂田清定さん
「作業風景を見てもらうことは、井波彫刻の場合あまりないんですよね。沖縄の人と、触れ合うのは作業をやっていて一番いい」
▽林原美代子さん
「送り出す時には(県人会の)みんなで来ますので。またお知らせください」
遠く離れた北陸の地で進む首里城の再建。文化や技術、そして地元の交流を生み出して。唐破風妻飾りは来年1月に沖縄に送られます。(取材 今井憲和)
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