業務禁止命令期間中に連鎖販売取引(マルチ商法)の勧誘を繰り返したとして、男女4人が逮捕された特定商取引法違反事件で、連鎖販売業「プレジデント」元代表、坂本新容疑者(30)が警視庁などの調べに容疑を認め「稼ぐだけ稼ぎ、ばれたら会社をつぶせばいいと思った」などと供述していることが捜査関係者への取材で分かった。同庁は、摘発が迫った際には稼いだ資金を会社の口座から抜き出し、確保する計画だったとみている。(小倉貞俊)

◆「罰金は大した額ではないから、バンバン売って」

 東京地検は31日、特商法違反の罪で坂本容疑者ら4人を起訴した。

警視庁が押収した契約書やパンフレットなど=月島署で

 捜査関係者によると、主犯格の坂本被告は、他に逮捕された関連会社幹部の3被告らに「万が一、摘発されたら会社に何億円とかの罰金命令が出るかもしれないので、(摘発されそうになったら)口座の金を抜いてすっからかんにして会社をつぶそう」「個人への罰金は大した額ではないから、バンバン売って(入会させて)ばれたら罰金を払えば良い」などと指示していたという。  坂本被告は、都から業務禁止命令が出ていた昨年3月以降の勧誘行為が違法であると認識し、摘発される可能性も視野に入れていたとみられる。残る3人も容疑を認めているという。

◆マッチングアプリで大学生らを誘い出して勧誘

 グループは禁止命令を受けた後も相次いで別会社や別団体を立ち上げており、被害者らによると、今も勧誘行為を続けているという。  犯行グループは、異性との出会いを求める大学生らをマッチングアプリで誘い出し、「ビジネススクール」の入会契約を30万〜60万円で結ばせる手口で、新規会員を1人獲得するごとに紹介料10万円を支払うなどのマルチ商法を展開。2019年10月からの約4年間で、42都道府県の約2000人から約8億5000万円を売り上げた。高額の支払いをためらう場合には、その場で消費者金融からの借り入れを強要することもあった。  同庁生活経済課は、こうした手口に強く警戒を呼びかけ「社会経験の浅い若者を食い物にする同種の事案には、徹底して対処する」としている。    ◇  ◇

◆被害に遭った男性がSNSで注意を呼びかけると…

 グループによるマルチ商法被害に遭った東京都内の大学4年の男性(24)は、坂本被告らへの憤りが今も拭えていない。  男性はコロナ禍が続いていた2021年6月、「交友関係を広げたい」と利用したマッチングアプリで出会った女性に「すごい人を紹介する」と誘われた。待ち合わせ場所に現れたのは、グループが運営するビジネススクールの上位会員ら。囲まれて入会を強要され逆らえず、消費者金融に借金して入会金を支払った。スクールでは知人を勧誘するようしつこく迫られ、「だまされた」と気付いた。  その後、男性は「被害者が増えないように」と交流サイト(SNS)でグループの手口などを発信。昨年5月、坂本被告や幹部らと都内で顔を合わせたときには、胸ぐらをつかまれて「何をやっているんだ」と強い語気で詰め寄られたといい、「とても怖かった」と振り返る。  逮捕の報道に安堵(あんど)はしたが「弱みに付け込まれ、裏切られた心の傷はいまだに癒えない。許せない」と力を込めた。 

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