伝統的な黒瓦の建物群が能登半島地震で被災した石川県輪島市門前町黒島地区で、昨春から開業準備を進めてきたゲストハウスが8月1日、地震の被害を乗り越えてプレオープンする。「復興ボランティアなどを通じて出会った人との縁でここまでこれた」とオーナーの杉野智行さん(37)。万感の思いで宿泊客を迎え入れる。(脇阪憲)

ゲストハウスのプレオープンに向けた準備を進める杉野智行さん=いずれも石川県輪島市門前町で

◆輪島に移住、開業へ準備中だった建物は修復できず

 杉野さんは能登の海と山にほれ込み、2021年に金沢市から黒島地区に移住した。その自然との共生に加え、サーフィンやシュノーケリングなどの海遊びを楽しんでもらえたらと、23年4月からゲストハウスの開業に向けて始動。今夏の開業を目標に準備を進めてきたが、元日に地震が襲った。準備中だった建物は専門家によると「直すのは難しい」。それでも「一度もやめるとは考えなかった。どうやって挽回するかを考えていた」。  地区で比較的被害の少なかった家屋を仮契約。4月からは杉野さんら地元有志で立ち上げた復興ボランティア団体の拠点としつつ、宿泊施設への改修を並行して進めてきた。

◆「自分たちの復興は『自分たちの手で』」に刺激受け

 ボランティアなどを通じて出会った人とのつながりが開業に導いた。特に刺激を受けたのは東日本大震災の復興事例を学ぶ勉強会での先人の存在。「誰かがつくったものに乗っかっていたら自分たちの復興はつくれない」「自分たちの手で豊かな暮らしを確かなものに」。ボランティア拠点としての運用をこのまま続けた方がいいかとの葛藤もあったが、この姿勢に感銘を受け、開業を決心した。時間をかけて丁寧に準備することもできたが、「もともと立てた今夏に開業という目標を曲げたくない」と無理にでも急いだ。開業を告知すると、友人や知人から予約の希望が相次いだ。

8月1日にプレオープンを迎える「ゲストハウス黒島」

 プレオープン期間の宿泊は輪島市門前町の出身者、同町に友人がいるなどの縁のある人、ゲストハウスの開業を支えてくれる人を対象とする。復旧復興に関わる業者やボランティアなどの宿泊需要があるのは理解するが、杉野さんは「末永く支えてくれる人、応援してくれる人に来てもらいたい」と理由を話す。

◆本格開業に向け、8月以降にクラファンも

 「何やかんやあったけど、夏にオープンするわ」。開業準備を手伝ってくれた友人に伝えると喜んでくれた。「能登が持っている自然の豊かさにプラスし、海遊びが好きな自分だったらこう暮らすというものを一緒に楽しんでもらえたら。そんなゲストハウスにしたい」  プレオープン中の料金はいずれも税込みで相部屋は1泊4500円、2人まで泊まれる個室は1泊1万1000円。ゲストハウスへの意見を募るアンケートに協力してもらう。本格開業に向け、理想の宿を目指すための資金を募るクラウドファンディングも8月以降に始める。予約は「ゲストハウス黒島」の交流サイト(SNS)から。


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