器用な手さばきで日本髪を結う高校生がいる。

週に2回~3回アルバイトとして、伝統芸能の舞台に立つ同じ年頃の女性に振り袖を着付け、髪を結いあげる。

自身は、肩までの長さの金髪に鮮やかな赤色のネイル。2か月前まで、和の世界とは縁もゆかりもなかった。

もともとファッションが好き たくさんのことを学びたかった

九州一の歓楽街、福岡市・中洲を臨む川沿いにある「わ乃桂」。
去年6月にオープンした、伝統芸能の鑑賞と和食が同時に楽しめる飲食店だ。

そこに、肩までの髪を金色に染めた若い女性が入ってきた。

福岡市内の高校2年生、玉井美羽(みはね)さん(17)。

週に2回~3回、ここでアルバイトをしている。
彼女の仕事は、演者の日本髪を結い着物を着付ける、支度係だ。

同じ年頃の’はかた舞娘’が鏡台の前に座ると、美羽さんは手慣れた様子で日本髪を仕上げた。
かかった時間は、わずか20分ほど。

玉井美羽さん
「舞娘ちゃんの支度係、日本髪や着付けをする人を探しているという話を聞いて応  募しました。
もともとファッションが好きで、日本髪や和装にも興味があったんですが、なかなか学ぶ機会がなかったんです。
そんな時に、『日本髪を結う人を探しているから学びながらやってみないか』と声がかかったので、思い切って…」

美羽さんは普段、福岡芸術高校のファッション・ビューティーコースに通っている。
授業では、服飾全般やメイク・ネイルに加えヘアアレンジも学んでいるが、この店でアルバイトをするまで日本髪の知識は全くなかった。

「知識も経験もない高校生に絞って募集した」

美羽さんを採用した「わ乃桂」代表の渡辺桂子さんは、あえて知識も経験もない高校生に絞って募集した、と話す。

「わ乃桂」代表・渡辺桂子さん
「高校生に着目したのは、10代のほうが覚えが早いからです。
大学生や若い社会人に比べ経験値が少ないため、素直に教えを身につけることが出来ると考えました。」

渡辺桂子さんは、3歳から日本舞踊を習い、三味線や鼓も嗜む、根っからの伝統芸能マニア。
好きがこうじて開店したのが、踊りや能を披露出来る舞台を併設した「わ乃桂」だった。

「わ乃桂」代表・渡辺桂子さん
「もともと日本舞踊の裾野を広げたいという私の思いがありました。
そしてそれに伴う、髪を結ったり着物を着付けたりする支度の担当者も育てたいと思っていたんです。
でも30年50年前に比べて今の時代は、教室に通いながら稽古を続けていくのは、やっぱりハードルが高い。
ですから逆に、まずは舞台を作ってお仕事を提供し、そのために稽古をする。
そうするといつの間にか技術が身について、自分のキャリアになって武器になる。
まず土台を作ってから裾野を広げていこうと、そういう考えです」

店は伝統芸能の裾野を広げるためのしかけ

渡辺桂子さんは店を開店後、早速’はかた舞娘’という企画を立ち上げた。

「わ乃桂」代表・渡辺桂子さん
「京都の舞妓さんや芸妓の半玉さんのようなプロとは違う、オリジナルの’はかた舞娘’です。
インバウンドで日本を訪れる外国人観光客に向け、はかた舞娘と一緒にお座敷遊びを楽しんだり、茶道や舞娘変身体験を楽しんで頂くプランを作りました。
若い方に経験してほしいと考えて、舞娘、お仕度係どちらも、高校生に白羽の矢を立てました。
共にアルバイトなんです」

アルバイト、というのもポイントだ。
従来ならば教室を開講し、技術を伝承するところなのだが、「お稽古までは出来ないけれど興味がある」という若者に門戸を広げる意味がある。
高校生にとっても、”報酬のある仕事”であれば責任感が芽生え、一生懸命に技術を磨く。

「わ乃桂」代表・渡辺桂子さん
「プロの日舞の先生や、髪結い師もいらっしゃいますが、数は少ない。
いつでも対応可能なスタッフを確保するためにも、高校生のアルバイトが一番良いと考えたんです」

洋風アレンジと違って・・・左右対称に結うのが難しい

こうして、美羽さんは、今年6月に「舞娘」のお支度係となった。
プロの美容師から日本髪の手ほどきを3回受けて、何とか一人で髪結が出来る様になった。

まず前髪を後ろに束ねながら頭頂部で丸め、次に両サイドの髪の毛を膨らませながら後ろに持ってくる。
最後に首の付け根で結わえて丸めると、時代劇の町娘の様なカジュアルな日本髪ができあがった。
美羽さんは、高校の授業で「夜会巻き」のような、浴衣向けのまとめ髪など一通りのヘアアレンジは習っている。日本髪は、洋装の髪型と通じるところがあるのだろうか。

玉井美羽さん
「いいえ。日本髪はいかにボリュームを出して結い上げるかがポイントです。
そのため’毛タボ’と呼ばれる人工毛を、髪と髪の間に巻き込みふっくらと結うのですが、これが特に難しいんです。
髪でタボを巻いていくうちにずれ落ちたりするので、なかなか納得いく形にならないんですよ。
一番驚いたのは、タボをこんなにたくさん使うんだということ。
必要な毛タボの量や、毛タボを入れる箇所が日本髪の場合とても多いんです。
授業で習うへアレンジではあまり使ったことがなくて。
ちぎりにくくて、扱いも難しいです」

毛タボは、洋装のパーティーヘアのアレンジでも使われるが、使用する量が全く違うという。

玉井美羽さん
「例えば、’びん’と呼ばれる両サイドの耳ぎわの部分にも毛タボを入れてふくらみを持たせますが、『出来た!』と思ったら、左右同じ大きさではなかったり、形が対称ではなかったり…。
最初のころは、今ほど日本髪らしくは仕上げられていませんでした。
練習含め5回目にやっと納得いく形に仕上がり、とても嬉しかったです。
『こんな髪形を自分で作れるなんて―』と感激しました。
家に帰って、『日本髪、結えるようになったよ』と家族に報告したら『すごいね!』と喜んでくれました。」

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