今、“9年制”の「義務教育学校」が増えています。2016年に制度化された義務教育学校では、小学校に6年、中学校に3年通うのではなく、9年間を1つの学校で過ごします。

専用の学習指導要領がないのも特徴で、全国で既に207校が開校しています(2023年度まで)。岐阜市で統合予定の小学校と中学校を取材しました。

岐阜市の藍川小・藍川北中では クラス替えができない学年も

2024年5月に岐阜市北部の藍川小学校で行われた運動会。赤白帽を被った子どもたちは小学生で、ハチマキを巻いた子どもたちは中学生。

小学生がダンスを披露すると、中学生も一緒に踊ります。藍川小学校と、藍川北中学校による初めての「合同運動会」です。

(小学5年生)「人数が多くて、楽しくて盛り上がる」

(中学1年生)「やっぱり楽しいです。一緒に昔、踊ったものを踊ったりして」

この2校は、2025年4月に統合して1つの学校になります。

2つの学校の児童生徒数は合計239人。県庁所在地の岐阜市にあっても、この10年で半減しています。ほとんどの学年でクラス替えができていないほどです。

(地域の人)
「(以前は1学年)4クラスくらいあったと思う」

国が定める「適正な学校規模」は1校あたり12から18学級。少子化に伴って増える小規模校では、人間関係が固定化し、社会性の向上や多様な意見に触れることが難しいとされます。また、学校運営の効率化も全国的な課題です。

「教師の手応えでは学力もついている」

JR岐阜駅から北東に10キロ以上離れたこの地域には、子どもの数が減っている小中学校がそれぞれ2つあります。

しかし、小学校、中学校同士は長良川を挟んで4~5キロほど離れているため、通学の影響が少ない小学校と中学校をそれぞれ統合することにしました。

(岐阜市教育委員会・水川和彦教育長)
「片方の校舎の中に両方の児童生徒が入っても、学校が運営できるくらいの規模に、児童生徒数が減ってきた。義務教育学校という全く新しい形の学校にすると、もっと教育効果が上がるのではないかと思い選定した」

目と鼻の先にある藍川小学校と藍川北中学校が統合し、2025年4月に岐阜市初の義務教育学校「藍川北学園」を開校。義務教育学校が選ばれる理由は、ほかにもあります。

(京都産業大学 現代社会学部・西川信廣教授)
「(小学校で)基礎的学力が十分定着しなかった子は、中学に入ったらもっと分からなくなる。そういう状況を克服するために、9年間1つの学校にしてみたらというのが元々の発想。教師の手応えでは、学力もついていると聞きます」

東海3県初の「義務教育学校」では1年生から英語も

藍川北学園が参考にする学校は、7年前に東海3県で初めて開校した岐阜県白川村の義務教育学校「白川郷学園」。

中学1年生にあたる学年は「7年生」、中学3年生にあたる最高学年は「9年生」です。

1つの学校で9年間授業を受けるメリットの一つが「教科担任制」。

白川郷学園では、1年生から英語の授業があります。一般的に英語の授業は小学3年生から始まりますが、義務教育学校ならカリキュラムを柔軟に組むことが可能です。

1年生の授業を終えた英語の先生は、次に7年生の授業へ。白川郷学園では英語をはじめ、算数、体育、図工、音楽で1年生から教科担任制を導入しています。

(白川郷学園・曽出昌宏校長)
「(効果が)点数にすぐあらわれるかというと、そういうものではない。1年生から専門的な指導を受けるので、学ぶ意欲は確実に高まっていると思う」

給食は1年生から9年生まで一緒に食べます。こうした環境は、中学入学時に新しい環境に馴染めなかったり、授業についていけなくなったりする「中1ギャップ」の解消としても期待されています。

(6年生)
「1年生から9年間(環境が)同じなので、あまり7年生になる不安はない」

(9年生)
「ずっと昔から、みんな一緒にいる友達みたいな感じ。学年に関係なく遊んでいて、仲が良いと思う」

「教材研究はかなりハード。あとはメリットしかない」

全国でも早く開校した白川郷学園には視察が絶えず、この日は藍川小学校と藍川北中学校の教員や地域の人が訪れました。

学校側は「学力と人間性の両方の向上を狙っている」と説明。

義務教育学校のデメリットはあるかの問いには「(教員が)1年生から9年生までの教材研究をするのは、かなりハード。そこの負担だけで、あとはメリットしかない」と答えます。

一方、子どもからは、こんな不安の声もありました。

(9年生)「今までずっと固定の人とばかり関わってきたので、新しい環境に出るときに、人とうまく関われるかな」

藍川北学園は、藍川北中学校の校舎を改築して活用するため、子どもたちは今、藍川小学校の校舎で勉強しています。白川郷学園を参考に、全校で一緒に給食を食べることや、教科担任制の導入が検討されています。

(岐阜市教育委員会・水川和彦教育長)
「子どもが減ったから1つの学校にするという考え方ではなく、新しい仕組みの学校をつくる。今までの学校ではできなかった教育なので、面白いのではないかと思う」

県庁所在地である岐阜市にも迫る少子化の波。統廃合を余儀なくされる学校が増える今、9年間子どもたちを見守る義務教育学校という選択肢が広がっていくかもしれません。

CBCテレビ「チャント!」2024年7月16日放送より

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