使われるのはほぼ英語のみ。首都圏をはじめ、全国の小中高生らの宿泊語学研修を毎年400校ほど受け入れている福島県天栄(てんえい)村のリゾート施設「ブリティッシュヒルズ」が今月、開業30年を迎えた。中世英国の建物や街並みを再現し「映画ハリー・ポッターのよう」と人気だが、今後は子どもたちが東日本大震災を考える「震災復興学習拠点」を目指すという。

開業30年を迎えた「ブリティッシュヒルズ」=福島県天栄村で

◆ドラマ「花より男子」で一躍有名に

ドラマのロケに使われたライブラリー=福島県天栄村で

建物にあしらわれた英国製ステンドグラス=福島県天栄村で

 標高1000メートル、万緑の高原にそびえ立つ黒い鉄門をくぐると、24万平方メートルの敷地に英国旗ユニオンジャックがはためく。松本潤さん主演のドラマ「花より男子」のロケ地として知られ、キャッチコピー「パスポートのいらない英国」の通り、滞在者はスタッフと原則全て英語でやりとりする。  ここは神田外語大を運営する神田外語グループ(千代田区)の語学研修施設。なぜ福島に立地したのか。グループによると、1994年に施設を開業した故佐野隆治・前理事長が太平洋戦争で県内の会津地域に疎開した経験があり、広報担当者は「福島への恩返しの思いがあった」と話す。

◆被災地学習と英語の両方を学ぶ施設に

震災復興学習で、2011年3月11日午後2時46分の地震発生直後に時計が止まったままの消防団の施設を見る渋谷教育学園幕張高の生徒ら=2023年11月、福島県双葉町で(神田外語大提供)

 2011年3月11日の東日本大震災の際、天栄村は最大震度6強を観測した。同年夏、神田外語大のボランティア学生が施設を訪れ、被災した子どもたちが英語を楽しく学べる教育支援活動を開始。6年間続けた。さらに21年から、この施設で宿泊する震災復興学習を組み込んだ新カリキュラムを設けた。昨年9月に県と包括連携協定を締結。県内の英語教育への協力支援のほか、施設を拠点に全国の子どもたちに英語と「3・11」を学んでもらうプロジェクトを掲げた。  「(被災地学習+英語)÷2」という発想で、現場の見聞から復興への課題を見つけ、それを英語でプレゼンテーションできるまで指導する。先駆けとして、英語教育に力を入れる渋谷教育学園幕張高校(千葉市)の生徒8人が昨年11月、東京電力福島第1原発事故の影響で22年8月まで全町避難が続いた同県双葉町を歩いた後、施設に戻って考えをスライド映像にまとめ、英語でスピーチした。

◆「子どもたちに、福島のことを世界へ発信してほしい」

記念式典であいさつするエミール・レベンドールー駐日英国臨時代理大使(左)=福島県天栄村で

 生徒の一人は「まちの復興が進まず、人が戻っていない姿をみて、これからどう立て直していくのが望ましいか疑問に思った」と思いを率直に語った。同行した篠崎佳弘教頭は「どうすれば被災地の人が豊かさを感じて過ごすことができるか。生徒らが答えのない課題に自分ごととしてチャレンジした」と振り返る。  今月7日、施設で行われた記念式典で、同グループの佐野元泰理事長は「未来を担う子どもたちが自らの言葉で福島や日本のことを世界に発信できるようになってほしい」と力を込めた。 

 ブリティッシュヒルズ 福島県天栄村田良尾芝草1の8。JR東北新幹線新白河駅から送迎バス(予約制)で約40分、車は東北自動車道白河インターチェンジから一般道で約40分。語学研修のほか一般宿泊も可能で、予約はウェブサイトから。問い合わせは電0248(85)1313へ。

 ◆文・中谷秀樹/写真・須藤英治  ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へメールでお願いします。 

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