2014年7月26日夜、長崎県佐世保市で当時高校一年生だった女子生徒が同級生を殺害した事件から10年。明らかにされた事実と改めて向き合い、様々な予兆がありながら防ぐことができなかった社会とこれからを考えるシリーズ最終回。

長崎家裁決定要旨より・少女の特性
【少女は重度のASD(自閉症スペクトラム障害)で、併存障害として素行障害を発症している。少女にはASDの特性として重度の共感性障害、特異な対象への過度に限局した関心が認められる。高い知的能力に対し共感性障害が重度で落差が極端である】

「少女には刑罰による抑止効果ない」

【その他、視覚優位の認知、直感像記憶(一度見た光景や画面を凝視した後、時を置いてそれらが再び眼前に鮮やかに見える)といった特性のほか、興味を持ったことを徹底して追及する行動様式を身に付けていること、不安や恐怖の感情が弱く、決めたことは迷いなく完遂する性格という要因も重なり、ASDの中でも非常に特殊な例である。ASDが非行に直結したわけではなく、環境的要因も影響している

検察官は5カ月に及んだ精神鑑定を受け「刑事責任能力あり」との意見書をつけて長崎家庭裁判所に送致し、被害者の遺族も「厳罰を望む」との意見陳述をしていました。

しかし家庭裁判所は【少女には刑罰による抑止効果がないし】【少女が自由に空想にふけることを許してしまう環境では、かえって症状が悪化する可能性がある】と判断。

【再犯防止や社会防衛の観点から考えても】【少女の特性や非行メカニズムに応じた治療教育の実施が期待できる医療少年院での処遇が望ましい】として、事件発生からおよそ1年後、「医療少年院送致」の保護処分を言い渡しました。

この段階で元少女は【いまだ殺人欲求を抱き続けており、具体的な改善はみられない】とされていました。一方で【今までの自分の中になかった苦しさ、申し訳なさを感じるようになったとして謝罪の言葉を述べるなど、変化の兆しはみられる】とも指摘されています。

「生と死への境界への関心」が芽生えたある出来事

長崎家裁決定要旨より・非行のメカニズム
【少女はASDによるコミュニケーションの問題を抱えていたが、知的能力の高さから表面的には適応できており、社会的に恵まれた環境で育ったことで抱えている問題は周囲に目立たなかった】

【小学生の時に猫の死骸を目撃し、生と死の境界への関心が芽生えて猫を殺し始めるが、視覚優位の認知や直感像記憶により視覚的興奮が反復されて高まっていき、限局的な関心が強化され、固執が強まっていった】

猫の死骸を目撃して芽生えた「生と死の境界への関心」
同時に周囲との違いを自覚し精神的な「孤立感」を深めていきます。

そして「興味を持ったことを徹底して追及」し、「決めたことは迷いなく完遂する」という、人間が夢や目標を叶える大きな力となるその性格をエンジンに、人として誤った方向に加速度的に走っていく事になりました。

【小学校時代の異物混入事件で問題が顕在化したが、適切な保護や対応がされず、逆に少女は自分が弾劾されたと認識し、周囲との違いに気付いて孤立感、疎外感を抱くと同時に、自身の得意な関心を隠すようになり、自己を統合できない苦悩や矛盾は深刻さを増していった】

病死した母の死で殺人欲求がー

事件の一年前、元少女が中学3年生の時、母親が病気で亡くなりました。決定要旨は、この母親の死が、元少女の殺人欲求を刺激したと指摘しています。

【少女は猫を殺す自分に苦悩しつつ、一方で猫を殺すことでは満足できなくなって解体を始め、さらに殺人欲求を抱くようになった。その後、実母の死を体験したことで殺人空想が増大し、殺人欲求が現実感を帯びていき、各非行に至った】

【興味を持ったことを徹底して追及する行動様式や、決めたことは迷いなく完遂する性格が欲求実現に拍車を掛けた。共感性が欠如しており、不安や恐怖の感情が弱く、欲求の制御が難しかった】

少年院法では、少年院への収容を20歳までを原則に23歳未満まで延長が可能とし、さらに第3種少年院(医療少年院)に限り「精神に著しい障害があり、医療の専門知識及び技術を踏まえて矯正教育を継続することが特に必要」と認められる場合、最大26歳未満までの継続を認めています。

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