震災学習列車ガイドの千代川らんさん(右端)から説明を受ける(左から)牛上智子さん、宮下左文さん、坂本藍さん、宮上哲夫総務部長=23日、岩手県内で

 能登半島地震で大きな被害を受け、長期の運休を余儀なくされた石川県の第三セクター「のと鉄道」が9月、地震の教訓や被災地の現状を伝える「語り部列車」の運行を始める。東日本大震災の後、「震災学習列車」を運行している三陸鉄道(岩手県宮古市)にノウハウを学ぼうと、のと鉄道で「語り部」を担う予定の3人が、三陸鉄道で研修を受けた。(小林大晃、写真も)

◆資料は配らず、今ここでしか聞けない話を

 研修を受けたのは宮下左文(さふみ)さん(67)、牛上智子さん(47)、坂本藍さん(44)。応援切符や鉄道版の御朱印「鉄印」を販売して売り上げを寄付するなどして、のと鉄道を支援してきた三陸鉄道が、研修受け入れも快諾。震災学習列車のガイドを務める千代川らんさん(25)と元ガイド山野目真(やまのめしん)さん(63)が、講師役として同乗した。  5人を乗せた列車は23日、宮古駅(宮古市)を出て、鵜住居(うのすまい)駅(岩手県釜石市)に向かった。防潮堤が造られた町並みを徐行したり、停車したりしながら進む。千代川さんは乗客に資料を配らないようにしていると説明。「後から見返してもらうのではなく、今ここでしか聞けない話を大切にしている」と伝えると、3人はうなずいた。山野目さんも「自然体でありのままで伝えるのが大事」と助言した。  鵜住居駅で折り返した後は、乗客がいる実際の震災学習列車を見学。千代川さんが写真入りのパネルを使い、乗客に震災の記憶を伝えるノウハウを学んだ。降車後は震災遺構などを巡り、地震を語り継ぐ思いを強くした。

◆延べ10万人が利用

 岩手の震災学習列車は、東日本大震災の翌年となる2012年に始まった企画列車。大津波の被害に遭った沿岸部を走り、被害状況や復興の過程を語り継ぐ役割を果たしている。小中高生の修学旅行や企業の研修旅行などに活用され、延べ約10万人が利用した。

ひまわりがデザインされたヘッドマークを付けたのと鉄道の車両

 今回、研修を受けた3人は、いずれも石川県輪島市や同県穴水町の自宅が損壊し、避難所生活を強いられたり、仮設住宅に入居したりしている。のと鉄道の乗務中に被災した宮下さんは「あのときに感じた思いを伝えることは、私にしかできない。皆さんの体験をくまなく拾い出して、伝えていく使命もあると感じた」と振り返った。  のと鉄道の語り部列車は普通列車を貸し切って運行し、大手旅行会社「クラブツーリズム」(東京都)が9月に始めるツアーに組み込まれる。今月20日、約7カ月ぶりに通常ダイヤに戻り、本格的な復興へ歩みを進めるのと鉄道。研修に同行した宮上哲夫総務部長(53)は「地元に貢献したいと始めた三陸鉄道の思いを感じ取った。語り部列車はやる意義がある」と力を込めた。


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