報告書の内容を説明する検証チームの竹森裕子弁護士(右)ら=横浜市役所で

 横浜市教育委員会が教員による児童・生徒への性加害事件の公判傍聴に職員を大量動員し、一般傍聴者を閉め出していた問題で、弁護士による検証チームは26日、憲法が保障する「公開裁判の原則」の趣旨に反し、職務の範囲を逸脱して違法だと結論付ける報告書を公表した。一方、加害教員の擁護や不祥事の隠ぺいが目的ではなかったと指摘し、動員された職員に支払われた旅費などの返還も不要とした。(神谷円香)

◆「安易な前例踏襲」

 報告書によると、2019年4月、鯉渕信也教育長(当時)が被害者を特定されないことが最重要だとして、職員動員を決めた。昨年12月から今年4月までの3事件の裁判で動員が続いていた理由は明示しなかったが、以前も行われていたから同様の対応をしなければならないなどという「安易な前例踏襲」とする見解を示した。職員らが一般の傍聴者への妨害を企てたことは「明らか」とした。

◆隠ぺいの意図は否定

 一方で、事案を隠そうとする意図があったのかどうかについては、既に退職していたり、免職されることが確実だったりする加害教員を擁護する動機や理由は見当たらないなどとして「なかった」と断定した。  動員は4事件の公判11回で延べ414人。支払われた旅費は約12万7000円だったが、職員は出張命令に従うべき立場で、不当利得に当たらないとして、返還の義務はないとした。市教委は鯉渕氏らが自主的に分担して返納することを明らかにした。  検証に当たった竹森裕子弁護士は記者会見で「この動員が正しいかどうか考えた職員もいるが、大きな声にならなかった」と話した。        ◇   ◇   ◇

◆被害者側の意向「むしろないがしろ」、児相職員も傍聴できず

 横浜市教育委員会が裁判の傍聴妨害をしていた問題を検証した報告書は、被害者の意向などを十分に確認せず、動員を継続してきた市教委のずさんな組織運営を浮き彫りにした。被害者側からの要請を受けた対応だったとする、市教委の主張も誤りだったことが明らかになった。

前教育長の動員決定時に用いられた説明資料=横浜市中区で

 報告書によると、動員があった4事件のうち1事件の公判では、被害者側に市教委の対応を一切知らせていなかった。保護者が法廷に入れなくなり、関係者しか座れないために被害者の特定につながりかねない特別傍聴席を利用せざるを得なくなった。その後も「やめてほしい」という明確な求めがないという理由で動員を継続していた。  これとは別に、被害者の支援に当たる児童相談所職員が傍聴できなかったケースもあったという。検証チームは「(公判傍聴が)被害生徒のためなら意向を確認すべきだが、十分にされたとは言えず、むしろないがしろにされた」と批判した。

◆市教委説明の矛盾露呈

 動員に至る経緯で、これまでの市教委の説明との食い違いが露呈した。問題が発覚した当初は、被害者側のNPO法人から2019年4月21日に提出された要請文書をきっかけに、動員することになったと主張していたが、実際はそれに先立つ同月初めの段階で、鯉渕信也教育長(当時)が意思決定していた。このことは、東京新聞の情報公開請求で開示された説明資料に「多くの傍聴で席を埋め尽くしたい」などと記載されていた。  認定事実と当初の説明が矛盾したことに、市教委の村上謙介教職員人事部長は「十分な確認ができていなかった」と釈明した。(森田真奈子) 

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